第81話 英雄譚

 このままショウのおごりが平和に終わるかなと思ったら、チンピラの集団が怪しい酒場にやってきた。

 さて、ショウはどうするかな。


「きゃあ」


 チンピラが女の子を抱き寄せる。


「可愛がってやるぜ」

「お客様、前回のツケを払って頂かないと」


 黒服の店員がアヤをつけに行った。


「ちっ、いい気分の所を邪魔しやがって。俺の組織はボンボレスファミリーだぜ。分かって言ってるのか」

「それはもちろん。ですが店で接待をする以上お代は払って頂きませんと」

「うるさいな。こいつを黙らせろ」

「へい、兄貴」


 黒服がチンピラ達にボコボコにされた。


「店の女を全て連れて来い。気に入った女は持ち帰ってやる」


 おお、イキっちゃって。

 ショウは口笛を吹いて知らんぷりしてる。

 お前はそういう奴だよな。


「あなたの恰好良いところを見てみたいな」

「そうか」


 ショウはそう言って、酒を一気飲みした。


「ちょっと、幻滅した」

「冗談だよ。さっきの台詞は一気飲みの台詞だったからさ」


 リリーがジト目でショウを見てる。


「……」

「分かったよ。行くよ。俺様の雄姿をしっかりと見ておくんだな」


 ショウがチンピラの前に進み出る。


「お前、何か文句あるのか」

「ここは楽しく酒を飲む所だ。もちろん金を払ってな」

「やっちまえ」


 ショウはチンピラ達を叩きのめした。

 蟲毒の効果が出ているな。

 チンピラ如きには負けないか。


 ショウは叩きのめしたチンピラを店の外に放り出した。

 そして、パンパンと手を叩きながら戻ってきた。


「凄い、あなた強かったのね」

「平和主義なんだけど、リリーを守るためだったら何でもするよ」

「嬉しい」

「よし、飲み直すぞ」


 ショウは完全に調子に乗っているな。

 俺は猛毒ネズミを店の外に待機させた。

 お礼参りに来るかも知れないからな。


「ボンボレスファミリーってのは規模はどれくらいだ?」


 俺は隣に座った女の子に訊いた。


「100人くらいね」

「意外と少ないな」


「1000人もいたらこの街を牛耳っているわよ」

「それもそうか。手練れはいるのか。幹部連中はそれなりに強いんだろ」

「まあね。でもCランク冒険者ぐらいだって守備兵の兵士が言ってたわ」


「中途半端だな」

「Aランクの実力があれば、冒険者やっているわよ」

「だよな」


 ショウが酔ったのか、服を脱ぎ始めた。

 お前の裸なんか見たくない。

 ショウの体には無数の傷があった。

 まるで歴戦の戦士だ。

 蟲毒でついたものに違いないが、ショウはそれを解説し始めた。


「この傷は、大盗賊団の頭とやった時にできた傷だ」

「本当。激しい戦いだったのね」

「そうさ、狭い空間で100人もの盗賊団と斬り合ったんだぜ」


 おいおい、ゴブリンとの戦闘が、英雄譚になり始めている。


「この歯形の痕は」

「それなドラゴンに齧られたんだ。でかい歯型だろ」


 ネズミの前歯ね。

 確かに普通の歯よりでかい。


「こっちの刺されたみたいなのは」

「それは魔法でやられたんだ。追尾してきて体内に食い込む魔法だ」

「恐ろしいわ」


 虫に齧られた跡な。

 この話の矛盾点は顔が綺麗だってことだ。

 ゴブリンの背丈は低いからな。

 顔をやられることは少ない。


 虫も這いあがったら手で潰すから、顔は刺されない。


「ドラゴンと戦った話を聞きたいわ」

「私も」

「あれは恐ろしい経験だった。俺はドラゴンの巣穴に入ってしまったんだ。そこには100の歯を持つドラゴンがいて、何度も噛まれて、俺は死ぬかと思った」

「それでどうしたの」

「聖剣どく……、いや聖剣ドクトールカリバーを何度も振るったんだ。相手は段々弱っていき、死に絶えるかと思われた。だが、聖剣に対する耐性ができてしまったんだ。で最後はこれで叩きのめした」


 そう言ってショウは拳を突き出した。

 毒魔法が効かなくて踏んづけて殺したんだよな、ネズミを。


 言っていることは勇ましいが、フルチンで熱弁されてもな。


「そして、それらの戦いで俺は魔剣を得た。無限のパワーを解き放つ魔剣をな。何人でも天国に行かせてやれるぜ」


 股間の魔剣のことを言っているのか。

 なんというか、ドン引きだな。


 女の子達はショウをうっとりと見つめている。

 知らぬが仏だな。


 リリーが嫉妬の眼を他の女の子に向けているぞ。

 浮気が過ぎるようだと振られるぞ。

 それよりも早く服を着ろ。


「お客様、全裸は困ります」

「おお、すまんな。傷痕を見せたかったんだ。へっくし」


 ほら、風邪をひくぞ。

 そろそろお開きだ。

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