牢獄
まちや大工作業のために集まっていた男衆が家路につき、夕暮れの赤に照らされた境内。
辺りにはヒグラシのカナカナという鳴き声が何重にも重なり、その騒々しさに似つかわしくない、どこかもの悲しい
後片付けを終えた
「――――私は、君たちのおかげで救われた。まだ完全に全てを思い出したわけではないけれど――――私が知っていることの中で、これだけは絶対に伝えておきたいんだ」
理那の話を聞くためにその場へと残った
「これだけはって、どんなことなんだ?」
「私は今でこそこうして自由の身だけれど、本来
理那の言う、真皇ならば理那をいつでも消せるという事実に、理那の隣に寄り添う
奏汰をまっすぐに見つめる理那の本来の黒へと戻った瞳。その理知的な瞳は、これから彼女が口にする内容の重要さと切実さを如実に物語っていた。
「奏汰君――――君は。いや、君以外にも無数に存在する数多の勇者は――――異世界の神々によってこの世界に捨てられたんだ。私たちが当たり前だと思っているこの時代、そして世界は――――利用価値のなくなった勇者を廃棄するために本来の時間軸から切り離された、牢獄なんだよ――――」
――
――――
――――――
「――――私めからのご報告は以上になります。いかがいたしましょう。皆々様」
無限とも思える広大な闇の中に、恭しく頭を垂れる
五玉のやや甲高い声に普段の軽薄な色は一切なく、ただただ忠実に、全てを捧げた偉大なる闇に対して役目を果たすという意志のみが感じられた。そして――――。
「そう
闇の中に四つの光が灯った。その光は闇の中にあって尚
「――――
そしてその四つの光のうちの一つ。中央に輝く黒い光が奏汰に敗れ去った煉凶の身を案じる声を発した。
「は――――煉凶の肉体そのものは一切の無傷。しかしながら、その身に授かった闇のほぼ全てを失い、核の構成が非常に不安定となっています――――今しばらくは、真皇様の中で休息が必要でしょうな」
「そうか……煉凶が探し当てた
「勿体ないお言葉……煉凶も真皇様の闇の中で、今頃喜びに打ち震えていることでしょう」
煉凶の状態を確認したその光は心苦しい想いの込められた声をその場に響かせた。
五玉はその言葉に再び恭しく頭を下げ、その心遣いに感謝の意を述べた。
「でも実際問題、今度の勇者は相当やるね。たしか、千年前にここまで来た大魔王――――アレを一人で倒したんだっけ?」
「ええ――――私も真皇と彼の戦を見ておりましたが、信じがたいことに、彼はすでに虹まで覚醒が進んでいました。間違いなく、彼は今まで廃棄された中でも最強の勇者です」
「哀れなことだ――――勇者の力が虹を成す段階まで進んでは、もはや元の世界になど決して戻れぬ。神の手には余る存在だ」
「で、でもでも――――っ! 良く覚えてないけど、あの大魔王ってけっこう強かったよね? それを一人で倒したんだから、きっとあの子、今まで凄く頑張ったんだと思うの。 ――――ねぇ、私たちも一度あの子とちゃんと話してさ、こっちの味方になってもらえないかな?」
「そうだな……それも良かろう。とはいえ、俺たちがそうだったように一筋縄ではいかんだろう――――彼もまた、一人の勇者なのだから――――」
闇の中で響く四つの声。
それは威風堂々とした、闇に似つかわしくない力強さを感じる声だった。
黒く輝く四つの光はどこか旧友との再開を喜ぶようにして暫し語らい、やがて再び静寂と闇の中に消えた――――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます