第二章 勇者と巫女
神代の凪
「ここは……」
「ん、起きたかの?」
目を覚ました
横になった状態から見上げて正面には大層立派な木製の骨組みの天井が見え、どこか懐かしい、古い土と木の匂いが奏汰の心を落ち着かせた。
かけられた穏やかな声に反応して視線を向けると、そこには奏汰のすぐ隣で正座し、ちびちびちと湯飲みに口をつける
「ここは私の家じゃ。あんな道のど真ん中で寝ておったら風邪をひくぞ?」
「寝ていた……俺が?」
「……疲れていたのじゃろ。お主が鬼をあらかた倒してくれたおかげで町の皆も無事じゃ。礼を言うぞ、奏汰」
自分が戦場のど真ん中で眠っていたという事実に、
そんな奏汰を見つめ、凪は
「そうか……それなら良かった!」
奏汰はそう言って半身を起こすと、改めて横に座る凪に目を向ける。
彼女の服装は奏汰もわずかに覚えがある現代の巫女服に似ていたが、黒の差し色が加えられた独特の色使いで、
「悪い、君はたしか……」
「凪じゃ。
「ああ、そういえばそうだった! 助けてくれてありがとう、凪!」
そう言って凪に笑みを浮かべる奏汰。だがそこでふと自分の姿に目を向けると、昨夜まで着ていた異世界の旅装束ではなく、薄い
「これは……服が違うような!?」
「ほむほむ。鬼の血やらなにやらでべちょんべちょんだったのでな。私が拭っておいたのじゃ。お主の体もくまなくぴかぴか! どうじゃ? 嬉しいじゃろ?」
「な、なんだってーーーー!? 全身って……ま、まさか……!?」
「なんじゃ?
「ぐわーーッ!?」
不思議そうに首を
● ● ●
「にゃははは! 遠慮せず食うがよいぞ!」
「こ、これはああああっ!?」
清浄な気配に包まれた林の中の
凪と向かいあって
「ごはんだ! ごはんが、ある……っ! うおおおお……っ」
「うむ。米は貴重ゆえ、本来なら
「ありがとう……っ! いただきます……!」
それは、異世界では決して食べることの出来なかった
七年間の異世界生活ですっかり薄れていた子供の頃の記憶が、一口ごとにはっきりと奏汰の中に
「うまい……っ! うますぎる……くっ……うう……っ! うまい……っ」
「……そうか」
――――何度も何度も感謝を口にし、滝のように涙を流して鼻水すらすすりながら一心不乱に
「まずは休め。お主には、休息が必要じゃ……」
少年とは思えぬほどに極限まで
さらに奏汰の全身は深く、無数の傷跡にまみれていた。しかし凪が
(昨夜の
我知らず、凪は痛みを
神代の巫女である凪にとって、鬼と戦うことは日常の中にある無数の責務の中の一つにすぎない。たとえ重要度が高くとも、鬼との戦いだけを行って生きていくことはこれから先もないだろう。
誰だってそうだと思っていた。
まず日常があり、その中で社会や他者との繋がりがある。
何者かとの命を賭けた闘争とは、その日々の中で発生する突発的な
だが――――恐らく奏汰は違う。
(
奏汰にとっては、今のこの平穏な時間こそが突発的な好運だった。
凪は自身のその思いを確信に変えつつ、奏汰への興味を深めていった――――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます