勇者は仇
それは、まさに
「あれ? なんだ、あの煙――――?」
奏汰はふと目を向けた北側の方角。ちょうど江戸城の石垣が見えるそのすぐ傍から、もうもうと黒煙が噴き上がるのを見た。
奏汰だけではない。その場で祭りの賑わいを楽しんでいた多くの人々も奏汰と同じように異変に気付き、皆その黒煙を指さして何事かと顔を見合わせた。
「あれは、僕たち
「そのようじゃな……もしやと思うが、試合中になにかあったのじゃろうか?」
一瞬で江戸中から見える高さまで舞い上がった黒煙は、こうして見ている間にも明らかにその勢いを増していた。奏汰達はお互いに頷き合うと、すぐさま自分達も試合会場へ戻るために駆け出そうとした。しかし――――。
「――――どこへ行くんだい? お楽しみはこれからだっていうのに。ねぇ……?」
「っ!?」
突然の声。その声に呼び止められ、奏汰達が試合会場へ向かうことは出来なかった。
無数の人でごった返す大通りの中央。
「あんたは――――! あの時の!?」
「おやおや……覚えていてくれたとは光栄だねぇ……? そうさ、私は翠の小位――――
瞬間、まるで辺り一帯全てが闇に包まれたかのような
それは数々の強敵と相対してきた奏汰をして、僅かに身がすくむほどの圧倒的怒りだった。全てを、否――――奏汰に対して向けられる強烈な憎悪だった。
「くっ!? こやつ――――!?」
「違う……! あの時とは、全然っ!」
辺り一帯を瞬間的に満たした零蝋の瘴気は奏汰や
そんな瘴気に当てられ、零蝋と奏汰達三人の周囲にいた多くの人々はそれだけでガクガクと
「会いたかった……。会いたかったよ……
漆黒の傘の向こう。その憎悪と怒りに震える零蝋の赤い瞳は奏汰だけを見ていた。それ以外のもの一切を映していなかった。
つう――――と。見開かれた零蝋の、片側の瞳から鮮血の涙が零れ落ちる。
見る者全てが即座に命を奪われかねない零蝋の致死の眼光を受けた奏汰はしかし。彼女のその瞳の奥。怒りと憎悪の向こう側に、どこまでも深い悲しみと絶望があることを即座に理解した――――。
「そうか――――。そうだよな。そりゃ、そうなるよな……」
奏汰は言うと、僅かな間だけその瞳を閉じて天を仰いだ。
しかしここはもはや
願いも祈りも
「なら――――俺はいつでも受けて立つッ!」
その瞳を見開いた奏汰の前に突如として天から一条の光が降り注ぐ。
光はやがてその
それは聖剣。
奏汰の勇気を形とした、決して折れる事なき
「ここにいる皆さんにも、指一本触れさせませんよっ!」
「この場は三対一じゃが、まさか卑怯とは言うまいなっ!」
そして光の中から現れた聖剣を手にした奏汰の左右。最早一切の迷いも怯えも見せずに鋭く構える新九郎と、
「ああ――――六業は私にこう言っていたよ。四人でやろう、皆でやろうってねぇ……。そしてお前たち人間を
零蝋の、もはや狂気すら
そしてその叫びを合図として、奏汰達の背後、立ち並ぶ出店の品々を打ち砕きながら二つの影が出現する。
それと全く同時に深紅の洋装を引き裂いて巨大な蜘蛛型の下半身を晒した零蝋と共に、それらの影は奏汰達めがけ三方から必殺の一撃を撃ち放った――――。
△――――――――――――――――△
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