終局
第一章 確かめるべきこと
始まりの願い
かつて――――まだ全ての世界に勇者も闇も存在していなかった頃。
神々は自らが作りだした世界だけを管理し、自らの信念と理想とによって無数の生命を導いていた。
神――――。
それは、原初に存在したたった一つの世界で物理的な次元を越え、思念や情報という概念の世界へと住処を移した高次生命体のことである。
高みへと至った彼ら神々がまず初めに求めた物。それは、自分たちと同じく高次元へと至る別の生命体の存在だった。
始原の頃。神の数は僅か数人だった。
だが、僅か数人の神々はそれでは寂しいと――――後に続く者が現れて欲しいと願った。
しかし広大な宇宙の中においても、物理的肉体を捨てて高次領域へと至るような存在は何兆、何京、
待ちくたびれた始原の神々はやがて、仲間を増やすために世界そのものを増やし始めた。元より少ない可能性ならば、試行回数を増加させるしかない。
更には生み出した世界で発生する生命体に、より強い進化と生存、そして好奇心という根源的な願いを付与した。
宇宙に生まれる生命はその全てが、やがて神へと至ることを願う。そうあるように手を加えた。
果たして、神の計画は軌道に乗った。
無数に生み出した世界の中から、精神的高みに到達し、その肉体を捨てて神と同じ領域へと至る存在が僅かずつではあるが現れ始めたのだ。
始原の神々は大層喜び、自らの後に続いた者たちを快く自らの領域へと招き、無限に存在する時間をかけて大いに語らった。
今思えば、それは神々にとっても、神々の後に続いた者たちにとっても、最も幸福な時代だったのかもしれない。
いかに高次領域まで到達した存在であっても――――譲れない物はある。
エゴと呼ばれるそれをより強く持った者たちが神の領域へと到達するようになるにつれ、早晩神々の計画は破綻を示し始める。
一度は神の領域へと到達しながら、神の計画を知って憤慨するもの、袂を分かつもの、神へと刃を向ける者――――。
神の意に同意しない者たちの起こしたさざ波が、その時にはすでに無数に存在していた数多の世界に伝播していった。
それは完璧だった世界にひずみを生み、多数の世界に神々が闇と――――邪と呼ぶ存在を生むようになっていく。
神に逆らう神と同等の力を持つ存在の意志が、神の生み出した世界を破壊する力となって、数多の世界に表出し始めたのだ。
闇の意志。神々が邪悪と断じた存在の願いは様々だった。
ある者は愛する者のために神を殺した。
ある者は神々の統治に不満を持ち、神を下して自らが王を名乗った。
ある者は世界よりも自らの家族を守るため、神の指示に逆らった。
それらは全て始原の神々への反逆にも等しい行為だった。
神々は怒り狂い、それら邪悪の者を罰し、滅ぼして回った。
ある時は世界そのものを跡形もなく消し去ることすら厭わなかった。
しかし驚くべき事に、そんな邪悪と断じた彼らは滅ぼせば滅ぼすほど――――抑圧すれば抑圧するほどにその力を増し、やがて始原の神すら逆に深手を負うような強大な力を発揮し始めたのだ。
高次存在である神々を上回る力を、物理的肉体を捨て切れぬ、
恐慌へと陥った神々は、自らが邪悪と呼ぶ存在をつぶさに観察した。
彼らの強さの根源を、力の源泉を明らかにしようとした。
そして、それはすぐに見つかった。
神をも上回る力の正体――――それは、かつて神々自身が全ての命に付与した願いだった。
かつて、確かに神々も持っていたはずの――――しかし今はもはや必要ないと切り捨てて久しい、願いを続ける命の力だった。
邪悪の持つ力の正体を見抜いた神々は、すぐさま願いを元にした新たなる力の創造を試みた。
願いが命を強くするのであれば。
その力が更に増大するように神が手助けしてやれば良い。
さすれば神が選びし願いが負ける道理など無し。
その結果生み出されたのが勇者だった。
与えられた者の願いの強さに呼応して力を増す、神々が生んだ究極の兵器。
この時――――すでに神は狂っていたのだろう。
邪悪と断じた自らの手に負えぬ存在を滅ぼすために、より手に負えぬ力を生み出す。果たして、勇者の力を与えた者たちがいつまでも神々の意に沿い続ける道理などなかったのだ。
始まりにあったのはたった一つの願い。
ただ仲間が欲しいと、自分たちしか存在しない高次の領域で、共に手を繋ぐことのできる仲間が欲しいというささやかな願い。
しかし今。もはやその願いを覚えている神は、一柱として存在していなかった――――。
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