迫り来る超魔王


「初めまして。地の果ての理想郷に住む強き王よ。私の名はココペリ。我が祖国Grand.United States of Americaを統べる精霊たちの使者としてやってきました」


「我が名はテスカトリポカ。ココペリと同様、偉大なる祖国のである。遠慮せずひれ伏すが良いぞ……」


「そしてこの俺様が酒呑童子しゅてんどうじだッッッ! わかったかァ!?」


 黒船の江戸湊えどみなと来航から半日。再建中の江戸城へと招かれたG.U.S.A――――『グランドアメリカ合衆国』の使節団。


 その代表を務めるのは、赤茶けた肌に鼻筋の通った顔を持つ少年、ココペリ。

 そしてその隣に座る長身の逞しい肉体を持つ軍服の男。テスカトリポカ。


 酒呑童子は自らがアメリカ艦隊を率いてきた等とのたまっていたが、実際の所彼は道案内のようなものだったらしく、あの超巨大戦艦オメテオトルの実権と、日の本との外交判断権はこの二者に委ねられていた。


 将軍家晴いえはると共に列席した老中ろうじゅう大目付おおめつけといったそうそうたる幕臣ばくしんたちの外れ――――そこにはきょろきょろと辺りを物珍しそうに見回す奏汰かなたと、普段通りにゃむにゃむと出された茶に口をつけるなぎ。そしてその横ではわわと縮こまる吉乃よしのの姿もあった。


「なるほど。余も報告は受けていたが、こうして直接交渉の席を持つのは初めてのこと――――多くの神と人が共に手を携えて暮らす国。それがアメリカであると聞き及んでいる」


「はい。あなた方がこちらにいる酒呑さんのようなと力を合わせて鬼の脅威に抵抗していたように――――我々アメリカに住む者たちも、人と力ある精霊たち、そして神と呼ばれる存在が


「我らに比べれば人という存在は実に矮小わいしょうだが…………時折気紛れのように面白い奇跡を起こすことがある。鬼には我ら神も手を焼いていた故、こうして使ってやっておるのよ」


 そう話すココペリとテスカトリポカだったが、その二人の姿を見た奏汰はすぐにあることに気づき、隣に座る凪へと顔を寄せて耳打ちする。


「なあ……あの人、自分のことをって言ってるけど……」


「うむ――――気付いたか奏汰よ。神や精霊と言ってはおるが、あの二人は共に私らがじゃ。影日向かげひなたのような力も感じぬし、真皇しんおうとの戦いの最中にも感じぬ」


「ふむふむ……? そういうことならアメリカという国の状況も、この日の本とあまり変わらなかったってことなんでしょうか?」


「そうじゃな。鬼に対抗するために人と人ならざる者が力を合わせる――――そのような意味であれば、全く同じと言えそうじゃの――――」


 こそこそと話す三人を余所に、アメリカからの使節団は日の本来航の目的を語り始める。


「我々はまず母なる大地に住む者たちの力を結集して。全ての鬼を駆逐した後、欧州にはびこる鬼を諸侯と共に撃破しました。そこからアフリカ、インド、アジアへと進みながら征伐を続けていたものの、今年の初めから鬼の出現がぱったりと途絶えたのです」


「おかしいと思ったのだ。ついに鬼の力も途絶えたのかと――――しかしそこでふと思い出した。はるか地の果ての辺境からやってきたというこの男が、とのたまっておったのをな」


「だから言っただろうがァ!? どんなに雑魚鬼を倒そうが、大元を絶たねぇ限り鬼はまた現れる! 俺の国にその大元があるってよォ!」


「はい――――酒呑童子さんのこの話の真相を確かめ、もし本当に鬼の根源がこの地の果てに存在するのならば我々で撃破する。それが今回の私たちの目的でした」


「なるほど……承知した」


 それまでココペリとテスカトリポカの話を黙って聞いていた将軍家晴が、その瞳を閉じたままゆっくりと頷く。


「其方の事情はわかった。しかし先ほども道すがら話したように、すでに日の本にその根を張っていた鬼の首魁しゅかいは、我が忠実なる臣下たちと此方に控える玉藻前たまもまえ殿率いるあやかし衆、そしてそちらに座るの尽力により討ち果たされている――――」


 家晴は自らの左右に並ぶ大勢の者たちの顔を一人一人見つめながら、使節団に対してそう語って聞かせた。


「だがしかし、確かに鬼は去ったが、それによって引き起こされる混乱は未だに収まってはいない。今この時もこの日の本に――――否、其方ら異国の者にとっても避けて通ることの出来ぬ、恐るべき脅威が迫っているのだ」


「なんだァ? 鬼もぶち殺せるようなテメェらが、今さら何にビビるってんだァ!? はっきり言やよぉ、鬼共がもういねぇってんで俺様は結構がっくりきてんだよォ!」


「ほほほ……相変わらず威勢だけは良いこと。なら酒呑しゅてんさん、あんたちょいと行って喧嘩してきてくれませんかね? ――――間もなくお江戸に降ってくる様と」


 重苦しい表情で日の本に迫る新たなる脅威の存在を告げる将軍家晴。

 家晴の言葉に眉をひそめる酒呑童子に、玉藻はからかうようにしてその脅威の名を告げるのであった――――。


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