第二章 太平は一日してならず
結ぶ者、壊す者
江戸に迫る超巨大ほうき星。
その存在を察知した将軍
「超魔王、ですか……鬼と同様、この地に災厄をもたらす脅威――――」
「ええ、そうです。鬼との戦いの果て、長きにわたり閉ざされ、
超魔王――――それは、かつての大魔王ラムダのように異世界で神々に対して反旗を翻していた恐るべき反逆者の肩書きだ。
今やほぼ全ての異世界の実情を把握する玉藻の話では、超魔王が支配する異世界に送られた勇者はその全てが敗れ去り、神すらも近づくことの出来ぬ闇の領域になっていたのだという。
そして始原の神が消え去った今、神すら恐れる超魔王の道行きを止める者は誰もいない。どこぞで
「わかりました――――その超魔王なる存在がこの地へと向かっているというのなら、我々第二征伐艦隊もお力添えをさせて頂きます。元より、我々はそのような脅威に軍事力をもって対抗し、各地にアメリカ合衆国の実力を示すこと。そして
「無論、それだけではなかろう? 貴国との交易が可能な物品の目録は後日こちらから送らせる故、実部分の外交交渉は超魔王への対処の後に段取らせてもらおう」
「感謝します、将軍様。構いませんね? テスカトリポカ」
「フン……孤島の主が、我らと対等のつもりでよく吠えおるわ。しかしその超魔王とかいう輩、放置すれば我が祖国の民まで害を被るであろうからな。早めに潰しておくが良かろう……」
「うむ。自由とまではいかぬが、この地に滞在する間の不便はさせぬつもりだ。共にこの地を脅かす者と対峙できること、嬉しく思う」
使節団の二者は互いに頷くと、双方に用意された超魔王対応までの艦隊の権利、及び軍事力の行使条件、その後の段取りなどの
――――――
――――
――
「いやー、俺にはさっぱりわからなかったけど、とりあえず丸く収まったみたいで良かったよ!」
「しかし超魔王とはの……
「でもでも、今まで神様の力で閉じ込められていたおかげで、逆にそういう変な人からは目をつけられずに済んでた部分もあったんですね。今の日の本も表向きは鎖国してますけど、そういうのを知ると一長一短なんだなって思いましたっ!」
「こちらを立てればあちらが立たずというやつじゃな。まあ、今はそのようなことを考えても仕方あるまい。私らはいつも通り、その超魔王とやらをけちょんけちょんにしてやれば良いのじゃ!」
会談が終わり、江戸城
すでに何度も訪れたせいか、殿中ですれ違う幕臣たちもそのような三人の姿に慣れたもの。全くの部外者である奏汰ですら、すれ違う何人かの旗本と手を振って挨拶している。
しかし、その時――――。
「おお、新九郎ではないか! 久しいのう!」
「あ……どうも。
殿中を進む三人の前に、
年の頃はまもなく四十に成ろうかという外見であろうか。
満面の笑みで声をかけるその男に、しかし
「――――あんた誰だ?」
「なんだ貴様は? 将軍家晴の兄であるこの儂、
自身に身を寄せる吉乃を庇うように前に出る奏汰。
男は自らを家晴の兄と名乗るが、そのような二人の態度にあからさまに機嫌を損ね、奏汰をつまみ出そうと声を荒げた。しかし――――。
「お待ち下さい叔父上っ! こちらの二人は先の鬼との大戦で真皇を討ち果たした勇者、
「なんだと? このような餓鬼が……」
「そうじゃぞ――――んじゃ、私らは先を急いでおるのでな。行くぞ、奏汰、吉乃」
しかしそこで吉乃は奏汰の前に飛び出すと、家貞をたしなめるように強い口調で指摘する。そして家貞が呆気にとられている間に、凪は自身の頭の後ろに両手を回して目を細め、二人を伴って家貞の横をすたすたと歩いて行ってしまった。
「チ……生意気な餓鬼共が……」
去り際、家貞は三人に聞こえるようにしてそう呟く。
そして殿中の廊下の角を曲がると同時、奏汰は隣を歩く吉乃を気遣うようにして声をかけた。
「……大丈夫か吉乃? 今会ったったばっかりだけど……なんかあの人ヤバいな?」
「いやぁ……まあ……その……あははは~~……って、そうなんですよッ! 僕からすると叔父に当たるのであまり正面切っては言えませんが、はっきり言って僕は苦手ですっ! 奏汰さんと凪さんが居てくれて良かったぁ……」
吉乃はほっと緊張の糸が切れたようにため息をつくと、そんな奏汰の手を握ってにっこりと笑みを浮かべる。
「ほむ……あからさまに人を見下しておる者の目じゃったからの。そう気にするな吉乃よ、人といっても千差万別。考えの合う者もおれば合わぬ者もおろう」
「叔父上は僕や父と同じ
「そうなのか……あの将軍様に剣で勝てる奴なんて異世界にも居ないだろうし、気にしなきゃいいのになっ!」
「のじゃのじゃ! 何があろうと私と奏汰は吉乃の味方じゃ! 何も気にすることはないのじゃ!」
「はいっ! ありがとうございます、奏汰さん、凪さんっ!」
励ますような二人のその言葉に、吉乃はさらにさらにその笑みを深くして喜びを露わにするのであった――――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます