勇者商売、始まる
「時が経つのは早いものだ……。勇者よ、貴様によって倒されたあの日からはや千年か……」
「適当なこと言うなよこの円盤野郎っ! まだ三日しか経ってないぞ!」
「貴様にとっては三日でも余にとっては千年なのだっ! 相変わらず知力の足りん奴めっ!」
神代神社の
薄い座布団の上に直立不動で立つピンク色の謎生物と、今にも目の前の謎生物に斬りかからんばかりの勢いで迫る
謎生物――――
「そこまでじゃ奏汰っ! お主の気持ちもわかるが、一度話を聞くときめたのならば抑えよ。それに、このままでは私の家が崩れてしまうわい!」
「ぐぬぬっ! そ、そうだった……っ!」
「……すまんの、奏汰よ。まさかお主が戦っていた相手がうちの神様じゃったとは。お主の言う通り、かつての
「その通りッ! 余は綺麗さっぱり心を入れ替えた! そして今日までずっと鬼共の侵攻から人の世を守り続けてきた! だからもうそんな目で
「くそっ! ……わかった」
凪から熱い茶の入った湯飲みを手渡され、渋々という様子で引き下がる奏汰。
影日向は安心したように口?のように見える場所から大きく息を吐き、胸?のような場所を短い手でなで下ろした。
「うむ……。剣を収めてくれて嬉しいぞ勇者よ。貴様が余を許せぬ気持ちはそのままでいい。ただ、その償いはこの国で余の成すべきことをしてからにしてほしいのだ」
「……どういうことだ?」
影日向は凪から手渡された湯飲みをなんとか自分の口に当てて一息に飲み干すと、その体から伸びた二本の目玉だけを奏汰に向け、ギラリとかつてのような鋭い眼光を宿した。
「それについてはすでに貴様も凪から聞いているだろう。この世界は
「あいつらにも、お前みたいなボスがいるっていうのか?」
影日向の言葉に、奏汰も先ほどまでの怒りを忘れ、真剣な面持ちとなって耳を傾ける。奏汰にとって、元の世界に戻ることも、目の前の魔王を完全に滅ぼすことも重要だったが、それ以上に今この時も邪悪に苦しめられている人々を守るということは、なによりも大切なことだったからだ。
「そうだ。その存在を知る僅かな者達からは、
「そこまでわかってるんなら、なんでさっさと倒しに行かない? 俺がお前を倒した時と同じで、そいつを倒しさえすれば鬼ももう出なくなるんじゃないのか?」
「その通りだ、勇者よ。余も当然そのように考え、すぐさま奴らに戦いを挑んだ。そして――――敗北したのだ」
「な……なんだとっ!?」
かつての
今はすっかり毒気も抜けてピンク色の謎生物と化しているが、大魔王の力は奏汰が誰よりも一番よく理解している。
命を削り、魂を燃やし尽くし、全ての感覚が薄れていく極限の死闘の果て。
何百、何千、何万という刃を振るってもまだ倒せず、そのあまりにも強大な力の前に、かつての奏汰は何度も絶望させられた。
その大魔王がすでに戦い、敗れ去っているという事実は、奏汰をして到底信じられるものではなかった。そして――――。
「勇者よ、貴様は確かに余を倒した最強の人間だ。しかし、その貴様でも今のままでは奴とは戦えぬ。奴の力はそれほどまでに――――」
「――――強大で、卑しく、そして
「っ! 誰じゃ!?」
瞬間、三人に向かって聞き覚えのないひび割れた声が届いた。
一斉に声のする方へと目を向けた三人の視線の先――――そこには、二つの異形の人影が立っていた。
「なんだお前ら!?」
「チッ……気を引き締めい奏汰。こやつら、位冠持ちじゃ……!」
「キキキ……さすがは神代の巫女。剛鬼共を全滅させた人間がいると聞いて様子を見に来ましたが、まさか大魔王さんのお知り合いとは。これは収穫ですねぇ? 貴方もそう思いませんか……
「
ひび割れた声の主は子供よりも小さなその体をゆらゆらと宙に浮遊させ、前後左右についた四つ別々の
そしてその隣に立つ見上げるほどの
「我の名は
「我が名は
現れた二体の鬼は、各々の作法で同時に名乗りを上げると、周囲の空間が歪むほどのどす黒い
二つの
「どうやらやる気のようじゃなっ! 奏汰よ、すまんが片方を頼めるか? 今の影日向はよわよわで役にたたん、ただの穴あきなまものなのじゃ!」
「任せろ! たとえ相手が誰だろうと……俺のやることは変わらないっ!」
麻地の着物に身を包んだ奏汰は、即座に手の中に現れた聖剣を握る。
そして全身から虹のように輝く光を放ちながら叫んだ。
「俺は
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