天下太平、世は事も無し
超魔王降臨と黒船来航。
「この度は我が国の侵略にも等しい行為に申し開きの機会を頂けたこと、心から感謝します。この地で皆様から受けたご厚意は、必ず大統領に伝えるとお約束します」
「うむ――――鬼無き今、我らも鎖国体制の見直しは自ずと進めることとなろう。此度の出会いは幸と不幸の入り交じる物であったかもしれないが、これを始まりとして、より良い関係を構築できることを願っている」
日の本侵略を企んだテスカトリポカは将軍の刃によって命を拾ったものの拘束され、このまま太平洋を横断する黒船と共に祖国へと送還。そこでしかるべき処断を受けることになる。
「ウェッヘッヘッヘ! じゃあならテメェら、俺が戻ってくるまで死ぬんじゃねぇぞ!」
「ああ、またな
「ホホホ……せっかく日の本に帰ってきたのにまたアメリカに戻られるなんて、もしかして酒呑さん、あなたあちらで良い人でも出来たので?」
「チッ! そんなんじゃねぇよ……! だが、あっちの大統領ってのもなかなかキツイ役目だ。あの馬鹿が問題を起こした以上、俺もアイツの力になってやりてぇ」
再び旅支度を終えて黒船の前に立つ
玉藻はその酒呑童子の表情に感心したような笑みを浮かべ、小さく頷いた。
「けど、久しぶりに帰ってきたがやっぱり日の本は良かったぜ。鬼はいなくなったが、そのせいで今は他の国も苦労してる。お前らが大変そうなら俺もまたすぐに戻ってくっからよ! それまで達者でなッ!」
酒呑童子はカウボーイハットから覗く顔に満面の笑みを浮かべると、奏汰や玉藻と固く手を握り合った。
そして異国へと旅立つ黒船――巨大戦艦オメテオトルの姿を、江戸湊に集まった大勢の人々はいつまでも見守っていた――――。
――――――
――――
――
「ハーーーッッハッハッハ! なんだ貴様!? 超魔王などという大層な肩書きを持つ癖に、勇者パワーを失った超勇者にボコボコのケチョンケチョンにされるとは! なんと情けないッ!」
「おのれ大魔王ッ! 妾を愚弄することは許さんぞッ! 貴様こそなんだその姿は!? 大魔王などとというからさぞかし禍々しい姿をしているかと思えば、ただのドーナツではないか!? その姿で大魔王などとは片腹痛いわッ!」
「二人とも仲良くしろよっ!? お前ら同じ魔王だろ!?」
「のじゃーーーー!?
「いやぁ、
紅葉深まる神代神社の
無事に残された神々との会談から帰還したドーナツ大魔王ラムダは、なぜか神代神社に居座っている超魔王オミクロンと早速口論になっていた。
「フン……神の中には消え去った始原の神を支持する者共もおったのだ。ここから旅立つ際に宣言したとおり、そのような輩はこの大魔王ラムダが皆粛正してやったわッッ!」
「けど意外と手強かったから魔力を使いすぎて元のドーナツに戻ったんだろ? お前ももう大魔王とかやめればいいのに……」
「馬鹿を言うな超勇者っ! 大魔王こそ余のアイデンティティ! たとえ神になろうと、勇者を超える力を得ようと、余は死ぬまで大魔王なのだ! ヌワーーーーハッハッハ!」
「ぐぐ……妾も数多の異世界がこのような状況にあると知っていれば大人しく一つの世界になど留まってはいなかった! かくなる上は、神も勇者も魔王も全て滅ぼし、今度こそ妾が真の超魔王となってくれるッ!」
「無理だなッッ! 貴様など所詮魔王四天王の中で最も格下、超勇者ごときに敗れるとは魔王の面汚しよぉぉぉぉおお!」
「貴様も負けておろうがあああああああッ!?」
煽り煽られ、魔王同士の頂上決戦を取っ組み合いで開始する大魔王と超魔王。そんな二人の魔王の姿を眺めながら、奏汰たち三人はやれやれと笑みを零すのであった――――。
――――――
――――
――
「奏汰よ、此度の働きも真に天晴れであった。老中や奉行衆からはお主を幕臣にという声もあるが、その考えはあるか?」
「ははっ! ありがとうございます将軍様! でもご遠慮しておきます。俺はまだ読み書きも最近できるようになったばかりだし、そういう難しい話は頭が痛くなっちゃって!」
「フ…………そうか」
再建された江戸城、本丸御殿の上層階張り出し部分。
平穏を取り戻した秋晴れの江戸の街並みを眺めながら、将軍家晴と奏汰は珍しく二人だけで会話を交わしていた。
「こうして来て貰ったのは他でもない……
「吉乃の?」
家晴は奏汰へと向き直ると、真剣な眼差しでそう切り出した。
「うむ……鬼の存在があったとはいえ、幕府は元来男系にて継承された組織。今回の兄
そう言って憂慮の色をその横顔に浮かべる家晴の姿は、将軍としてでは無く、一人の父としての優しさに満ちていた。
「吉乃にはあまりにも苦労をかけ続けてしまった――――奏汰よ、この徳川家晴は父として、お主のことを吉乃を任せるに足る男だと信じる」
「将軍様…………」
家晴はまっすぐに奏汰の目を見つめ、はっきりとそう言った。
「吉乃を頼む。どうか――――末永く娘を守ってやってくれ」
「…………わかってる。吉乃のことは、俺が絶対に守るよ」
奏汰の肩にその大きな手を乗せ、笑みを浮かべる家晴。奏汰もまたその家晴の眼差しを正面から見据え、何よりも力強く頷くのであった――――。
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