楽を守る狐
炎に包まれるあやかし通り。
しかしその火の手は
あやかし通りに住む様々な妖術を操るあやかし達が、自分達の持つ力を使い、炎の勢いを抑えているからだ。
そして、その炎の赤い光に照らされ、浮かび上がる異形の鬼と、その鬼と死闘を演じる――――やはりこちらも異形のあやかし達。
黒い翼をはためかせた
かと思えば、地上ではその
今、襲撃を受けているのは江戸の中でもこのあやかし通りだけだった。
しかしたとえ
炎など、雑魚鬼など。あやかしにとってはなんの脅威にもならない。
鬼と戦う力を持つあやかしですら恐れるもの。それは――――。
「――――フム。随分と明るくなってきた。
「いえいえ。どうやらやはりあなた方とは気が合わないようで。私は
あやかし通りの最奥。いまだ火の手には
男は黒と白に中央で色分けされたの洋装に身を包み、同じく渡来の品であろう帽子の下からやや
男の周囲には無残に引き裂かれ、血まみれとなった天狗や他のあやかし達の
男は白い手袋をはめた手で胸元から金色に輝く懐中時計を取りだすと、
そして、その男と御殿の前で対峙するのは黒と金の着物に身を包み、
玉藻はあやかし通りで最も古く、もっとも強い力を持つ大妖怪である。本来であれば位冠持ちの鬼とも互角以上に戦うだけの力を持っている。しかし――――。
「うえーーん! 先生ぇ!」
「びえええ! おっとー! おっかあー!」
「あらあら、皆さん泣かないでくださいね。大丈夫……先生が必ずあなた達を守ってあげますから」
「そのような弱者を後ろに、この
玉藻の背後、あやかし御殿の入り口前には、大勢の幼いあやかし達が集められていた。
二百年という長い年月の中、あやかし通りが鬼の襲撃を受けたのは一度や二度ではない。鬼による襲撃があれば、即座に戦えないあやかし達はあやかし御殿に集める手はずになっていた。
「笑って頂けたなら結構です。しかしおかしいですねぇ? 今夜は一体どこからどのようにしてここへいらしたので? この私としたことが、ここまでされるまで一切気配を感じませんでしたよ」
その背に大勢の子供たちを
「小生にも与えられた仕事がある。その遂行に万全を期すべく、
「なんとまあ……まさか素直に教えて頂けるとは思いませんでしたよ」
「なぜ
塵異はそう言って一つ息をつくと、自身の
「今回は全てを根絶やしにするまでやるということだ。今こうして種を明かしたとして、それを知る者がここから生きて時を進めることはない」
「おやおや、まあまあ。それは
「フム……」
その美しいかんばせを歪め、並の人間ならば
しかし塵異はそれすらも全く意に介さず、僅かに首を
「……強がりは止めたまえ。その背後の足手まとい共がいては君は全力を出すことができない。 ――――しかしなぜそこまで
「はっ! これは舐められたものですねぇ!?」
瞬間、玉藻の妖気が一気に
「なぜ? 私が楽しいからに決まっているでしょう! そしてこの子達を守るのもそうです。
「フム、ならばやってみるかね」
しかしその凄まじい妖気を前にしても塵異は止まらない。つかつかと
「今じゃ奏汰! 神式、
「うおおおおおおお! ひっさああああつ! 稲妻勇者キイイイイイイイイック!」
「ぬっ!?」
闇と炎を共に切り裂き、天から一直線に落下する閃光。
それは
あまりの速度と
「待たせたの! 無事じゃったか玉藻!」
「超勇者奏汰、見参! 後は俺に任せろ!」
「……いやはや、これはなんともかんともご
奏汰の背中から首元にしっかりと手を回して抱きつき、
そして突然のことに呆気にとられつつも、玉藻は何もせずに潰れた塵異に若干の哀れみの言葉をかける。
今の奏汰の跳び蹴りには神代の力が込められていた。
いかに位冠持ちとはいえ、直撃すれば再生は不可能――――。
「――――フム。君が
「なんじゃとっ!?」
その声は爆炎の向こう側から届いた。
炎の先からゆらめくようにして現れたのは、その服に傷一つ、ほこり一つついていない塵異の姿だった。
「今のでこれか……! こいつも強いな……!」
「改めて名乗らせて頂く。小生の名は塵異――――翠の大位を冠する者」
塵異は
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