鬼を討つ者達
「よぉーし。全員揃ったな!?」
「オオオオオオオ!」
日の暮れかかった江戸の一角。
多くの人々で行き交う町人街から区切られた、武家屋敷が建ち並ぶ立派な門の前。
雑に後方へと
男の前には黒い
「今夜も引き続き鬼共の仕掛けた術式を見つけ次第破壊する。クソみてぇな地味な仕事だが、徳川の太平はこいつを片っ端から叩きつぶせるかどうかにかかってンだ。サボるんじゃねぇ! 気合い入れろぉ!」
「オオオオオオオ!」
男の声に
幕府直属の
討鬼衆は総勢二百人からなる
時代ごとにあやかし達や神仏勢と討鬼衆の力関係は変化し続けているが、
そして、そんな討鬼衆の様子を離れた場所から眺めるのは――――。
「うおおお!? なんだか俺も気合い入ってきたあああ!」
「ほむほむ。私もこうして討鬼衆の陣を眺めるのは初めてじゃが、なかなかに
普段通りの
そんな二人が見守る前で出陣の集会を終え、各自で準備へと移行する討鬼衆。
そしてその輪から一人離れ、余裕の笑みを浮かべる
「フッフッフ……どうです? 僕たち討鬼衆の士気の高さは。怖じ気づいて逃げ出すのなら今のうちですよっ!?」
「いや、だから勇者は怯えないから勇者なんだって!」
「ふん……お主が何を考えておるのかは知らんが、後で泣くのはそっちの方じゃぞ!」
他の討鬼衆と同様の
その眼差しは、この視線を受けた者が一般的な感性の持ち主であれば
しかし凪はそんなもの全く意に介さず、敵意剥き出しの野良猫のようにフシューと牙を剥いて
「ぐぬぬ……ま、まあいいです! 先ほども言いましたが、これは僕とそこにいるでくの坊の勝負ですから! 決まり事はただ一つ。今回の主命でより多くの手柄を立てた方が相手の言うことをなんでも一つ聞く! 僕の要求は剣奏汰の神社からの退去です! いいですねっ!?」
凪の敵意を受けて若干ひるみ腰になる新九郎だったが、そこはなんとか気持ちを立て直すと、再びびしっと指を奏汰へと突き出して事前の取り決めを再度確認する。
「いいぞ! 俺は別に新九郎にやってほしいこととかないけどな!」
「むむ……なんですかその呼び方はっ!? せめて徳乃さんと呼んで下さい! 貴方にそんな慣れ慣れしくされるいわれはありませんからっ!」
新九郎の理不尽な提案にも奏汰は笑みを浮かべ、こちらも自信満々とばかりに腕を組んで了承する。だがそのやり取りを横で見ていた凪は、さすがに気が気ではない様子で心配そうに奏汰を見つめた。
「まったく……奏汰にも困ったものじゃ。もし負けたりしたらどうするつもりなんじゃ? 私は奏汰を
「その時は神社から出て、神社の隣の森の中に住むっ!」
「おお!? それは良い考えじゃな! なら私も奏汰と一緒にそっちに住むのじゃ!」
「な、なに勝手なことを言ってるんですか!? っていうか、どうしてそんなに親しげに……っ!?」
凪の心配を知ってか知らずか、奏汰はそう言ってのんきに笑みを浮かべた。
凪は凪でなるほどと同調するところがあったらしく、二人はすぐにやんややんやと勝手に盛り上がり始めてしまう。
新九郎はそんな二人の様子を歯がみして美しい顔を歪ませていたが、そこに先ほどまで討鬼衆の前に立って気勢を上げていた男がやってくる。
「――――おい新九郎、てめぇ準備は終わったのか? まだならさっさとしろよ」
「し、
「そいつは結構。お前にしちゃ珍しいこともあったもんだ」
四十万と呼ばれた長身の男は言いながら新九郎の肩をぽんと叩くと、そのまま凪と奏汰に軽い目礼で挨拶した。
「俺の名は
「俺は剣奏汰!」
「神代の凪じゃ。世話になるぞ」
四十万は二人への挨拶を終えると、そのまま新九郎に今回の主命の人員分けらしき物が書かれた和紙を手渡す。
「取り決めに
四十万は
「って……四十万さんっ!? この隊分け、僕と剣奏汰が同じ隊なんですけど!? これじゃ、僕たちの勝負が……っ!」
「はぁぁぁあ? なんだ勝負ってのは? てめぇが連れてきた客人の面倒をてめぇが見ないでどうするんだ? 馬鹿なのか?」
「はわーー!? そ、その通りですううううっ!?」
突然意味不明の訴えを口に出した新九郎に、四十万は取り合う姿勢も見せず、さも当然というようにそう言い切った。
よくよく考えなくてもそうなるであろうことを一切考慮していなかった新九郎は、自身の浅はかさに悲しみの声を上げるのであった――――。
△――――――――――――――――△
△△△ ここまでお読み頂きありがとうございます。執筆の励みになりますので面白かったら評価・フォロー・応援していただけるとうれしいです! △△△
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます