勇者の選択
「この光は、まさか――――」
「翠の力――――まだ
その時。
最後まで拮抗した
長き年月を生きてきた二体の大位は、その経験の中にかつて存在しなかった事象の出現を見た。
たった今奏汰が煉凶にされたのと同じ、自らの側であったはずの力が、よりによって仇敵の手によって振るわれたのだ。
天上の奏汰から地上の三人めがけてまっすぐに伸びた三条の
それは、陽禅が知る
「ああ――――……聞こえたのじゃ。よくわからんが、私にも確かに聞こえたぞ……奏汰っ!」
「なに!?」
刹那。地上で各々の相手を死地へと追いやっていたはずの三体の陽禅が、殆ど同時にあらぬ方向へと弾き飛ばされる。
衝撃に弾かれ宙を舞いつつも、即座に自身の能力を全開にして不可視の障壁を展開する陽禅。しかしそれは間に合わない。
「僕にも――――っ! 僕にも聞こえました! ごめんなさい奏汰さんっ! 僕ももっと――――もっと強くなりますからああっ!」
「カナっちは、俺の事もダチだって――――! 一緒にやろうって、言ってくれるンだな? ――――なら、俺だってやってやンよおおおおッ!」
凪だけではない。その身に翠の輝きを宿した新九郎と六郎が、すでに自らの窮地を脱し、その瞳に揺るぎない決意の光を宿して陽禅へと迫っていたのだ。
「はあああああああ! 天道回神流奥義――――
「っ!?」
新九郎が吠える。新九郎が宿した翠の輝きが明滅して青へと変わる。
次の瞬間。陽禅の不可視の障壁は全てが粉微塵にまで切断され、先ほどまで容易く躱されていた新九郎の斬撃は、その全てが陽禅にとって致命の一撃となってその身を深く切り裂いた。
「見えたンだよ! こんなに小さなカナっちが、お袋サンと一緒に楽しく暮らして――――でも、もうそれが出来なくて、泣いてるのが俺にも見えた――――ッ!」
「ろ、六業ッ!? 君の、君のその力は――――!?」
三体同時に切り裂かれた陽禅の視界に、輝きを纏った漆黒の蛇が立った。
「退いてくれ陽禅サンッ! 俺は――――アンタを殺したくねぇっ!」
漆黒の核をその身に宿しながらも、周囲に金と銀の輝きを宿した六郎が、両手を蛇の
「あああああああああああッッ!? ち、違う――――この力は、黄の、力じゃ――――ろく、ごうっ」
六郎の両手から眩いばかりの閃光が放たれ、その輝きの熱線は新九郎の斬撃で深手を負った陽禅の分裂体にさらなる追い打ちとなって容易くその身を焼いた。
――――それは、陽禅にとって全く理解が追いつかない事象だった。
今のこの現象はまるで、この世に存在する全ての力が混ざり合い、荒れ狂う暴風の中へと放り込まれたような錯覚を彼女に与えた。そして――――。
「分体のダメージが大きい! なにが――――!? これは一体、なにが起こっている!?」
「落ち着くんだ。翠の力の本質は支配。慌てず、そこから逆算してこの事象を観察すれば、答えが――――」
「ほむ! 支配とな――――? どうやら奏汰は、この力をそうは使っていないようじゃぞっ!」
「――――速いっ!?」
その全身を散々に傷つけられ、しかし即座に自身の持つ無限の集積によってその身を再形成する三体の陽禅。だが、そこに先回りするかのようにして凪の声が響いた。
視線を向けた陽禅の頭上――――。
そこには自身の周囲に虹色に輝く神符で光輪を形成し、その手にかつてとは比べものにならないエネルギーを集積した、燃えさかる赤の力を宿した破神弓を
「馬鹿な……その力は、剣……奏汰のっ!?」
「――――その通りじゃ。奏汰は自分の持つ力を、あの光を通して私たちに繋げてくれたのじゃ。これならこの
「そんな、ことが――――っ!」
すでに、陽禅はその場から動くことすら不可能だった。
陽禅の周囲には勇者の黄で無限に強化された凪の結界が展開され、陽禅の持つ、同じく無限を司る黄の力を持ってしても、全く抗うことすらできなかった。
奏汰一人では様々な制約や反動で不可能だった七色の力の行使が、翠の光で凪たちと繋がったことでその枷を失い、今この時、それは全く新しい力へと昇華しようとしていた。
「奏汰よ――――やはりお主はとんでもない奴じゃ。まさかこの命を賭けた
結界に囚われた陽禅を
「なればこそ――――っ! 私は必ず、お主の想いに応えてみせるっ! 神式――――
閃光。
広大なススキ原を遙か彼方まで射貫く閃光が貫き、それはやがて虹色の弧を夜空の闇に描きながら遙か天上へと昇った。
ただまっすぐに、眼前の敵めがけて祈りと共に放たれた全てを穿つ破神弓の一矢。
放たれた膨大なエネルギーの奔流は凄まじい衝撃と閃光で凪の艶やかな黒髪を後方へとたなびかせ、飲み込まれた三体の陽禅を跡形もなく消し飛ばした。
「さあ――――! 奏汰よっ!」
「奏汰さん! 僕と――――!」
「カナっち! 俺と――――!」
未だ収まらぬ眩い閃光の中。
まっすぐに上空を見上げた凪が、新九郎が、そしてその体に刻まれた漆黒の蛇の紋の色を白へと変えた六郎が叫んだ。
「私たちみんなでやるのじゃ! 奏汰――――っ!」
その三人の声は、彼らが受け取った光よりも大きな力となって、遙か上空の奏汰へと届いた――――。
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