その勇気の果て
勇者の虹。
それは、かつて
その七色の輝きは希望を司り、亜光速・滅殺・絶対防御・状態異常無効化と自然治癒・瞬間転移・時空間操作の六つの力と、それら六つの力を無限に上昇させ続ける七つ目の力の覚醒によって完成を見た力だった。
その力は絶対無敵。
ラムダの攻撃はその一切が奏汰に通じず、逆に奏汰の攻撃は全てがラムダにとって致命の一撃となった。
奏汰が勇者の虹を行使するまで戦いを圧倒的優位に進めていた大魔王ラムダは、奏汰がこの最後の勇者パワーに目覚めたと同時、為す術もなく敗れ去っている。
しかしその強すぎる力は、奏汰に取り返しの付かない反動をもたらす。
その概念すらねじ曲げる、勇者の虹の常軌を逸した力。それは奏汰が存在する世界にとって完全に異物であり、脅威となる。
奏汰が存在する星が、宇宙が、時空そのものが奏汰を異物として認知した結果、奏汰は徐々にその世界からはみ出していき、最後には二度と戻れぬ虚空の中に消えることになる。
凪と約束した――――誓いを忘れたわけではない。
だがなんとしても、この存在だけは今ここで倒さなければならなかった。
もはや、奏汰は鬼に――――否、
「うおおおおおおおおおお! 最終最後――――勇者キイイイイイイイイック!」
その光芒は七色の輝きとなって闇の中を駆けた。だが駆けたという表現はもはや適切ではない。すでに奏汰の姿はあらゆる存在から視認不可能。
あまりにも速い。無限上昇された勇者の白と青の相乗効果で、奏汰の体を構成する物質は量子化と再構成を瞬時に繰り返しており、その機動速度はもはや光速を超えている。
奏汰の放った惑星すら穿ち抜く蹴りは眼前の闇を尽く切り裂き、その傍から燃やし尽くして消滅させる。
奏汰が燃やした闇の後には虹色の輝きが残り、それはあたかも闇に呑まれた世界に光の領域を再建するかのような光景だった。
真皇の言葉が全方位から奏汰へと注がれる。
それはまるで周囲にたゆたう闇の粒子、全てから放たれているような声だった。
「くるかっ!」
瞬間、奏汰の周囲の闇が凝縮。先ほどと同様奏汰の光を押し潰しにかかる。しかし奏汰はその七色に変化した瞳を見開き、もはやその切っ先の果てすら見えぬほどの長大な
「全部だ――――! ここにあるお前の体全部ッッ! 俺が消し飛ばしてやるッッ!」
奏汰の光刃によって薙ぎ払われ、闇はその領域を大きく減じた。焼き尽くされた闇の向こうに、人だった頃の
彼女は決して、他者を傷つけて笑みを浮かべるような人格ではなかった。
とても深い知的好奇心を持ち、多くの人々が
それは、知性という人の持つ力によってもたらされた、彼女なりの深い優しさの表れでもあった。
周囲の人々からは偏屈な研究狂いと見られていた
「う――――おおおおおおおおおおおおおおおッ!」
その熱を取り戻していく零蝋の魂に触発されたように、奏汰の光は更に輝きを増していく。
元より、奏汰の勇者の虹は時間経過で無限にその力が上昇する。今こうして戦っている間にも奏汰の力は指数関数的に跳ね上がり続けていた。
秒を重ねるごとに無限にその輝きを増していく光。
それはまさしく、一片の闇すら存在を許さぬ極限の光だった。
だがその時、奏汰の光によって散り散りに切り裂かれた闇がその濃度を増す。
闇の中に明確な濃淡と輪郭が現れ、七色の光芒となって
「――――ぐっ!?」
刹那、奏汰の七色の軌道が鋭角に弾かれる。絶対防御のはずの障壁が凄まじいプラズマの放射を放ちながら欠損し、それこそ光速に匹敵する速度で奏汰は吹き飛ばされていた。
「この――――ッ!」
だが弾かれた光は瞬時に立ち直ってその輝きを強める。もはや、物理法則もなにもかもを置き去りにした鋭角な加速と瞬間転移を組み合わせた軌道で闇の中に輝きを灯し、ついにその姿を現わした巨大な闇――――真皇の人型へと特攻する。だが――――。
「――――っ!?」
闇が迫る。
奏汰の虹は再び弾かれた。だが弾かれつつも、その光は即座に輝きを取り戻し、そしてまた弾かれる。
潰され、飛ばされ、飲み込まれ――――奏汰はその度に歯を食いしばり、自身の内にある力を引き出して抗う。しかし――――。
「くっ――――そおおおおおおおおッッ!」
それはまるで、荒れ狂う大海の狭間でもがき手を伸ばす人のようですらあった。
真皇の巨体がその闇の巨躯を振るう度、奏汰の光は為す術もなく秒速数万キロの果てへと弾き飛ばされ、その度に奏汰の光は砕け、ひび割れ、霧散した。
奏汰はもはや音も無く、全ての感覚器とありったの力を込めて闇の中を駆けた。
瞬間転移を駆使し、量子化の最中に受けた攻撃で自身を構成する物質が
すでに奏汰は理解していた。
この目の前に立つ闇そのものの存在が、奏汰の力を――――勇者の力を遙かに上回っていることに。
「がっ! ぐっ――――ッッ! くっ! っそ――――!」
気付けば、奏汰の光は最早まともにその軌道を描けていない。真皇の放つ闇の力に押し出され、吐き出され、蹴り上げられて無限に乱反射しているだけだ。
もはや絶対防御などという力に意味はない。すでにあらゆるエネルギーを遮断するはずの障壁は崩壊寸前まで追い込まれていた。
無限にその力を増すはずの緑の輝きは、その力の供給が、闇によって奪われる力の総量に追いつかない。全てを滅ぼす赤き炎は、無限とも思える闇の前ではあまりにも小さかった。
「まだだ……――――ッ! ここだけは、こいつにだけは絶対に――――負けられないッッ!」
「勇者式陽炎剣――――ッッ!」
闇の中、奏汰がその戦い方を変える。闇雲に動くことを止め、その心静かに――――真皇を倒す、ただそれだけの想いを聖剣へと注ぎ込む。
ただ闇雲に放出されていた奏汰の光が、聖剣の刃、その一点のみに収束し、それは今までの中でもっとも強い輝きとなって闇を照らした。
そう――――それは奏汰が凪や新九郎と出会ったことで手に入れた、新たな力だった。
『これだけは忘れないで欲しいのじゃ。何があろうと、お主自身の命を一番に考えるのじゃ。私と新九郎が、ここでお主を待っておるのじゃからな――――』
『奏汰さん……お願いですから、ほんっとーに無茶だけはしないで下さいねっ! いつでもどこでも心の余裕っ! ですよっ!?』
刹那。奏汰の脳裏に、もはや遙か遠くなったようにすら感じる二人の声が響いた。
「っ――――! これが、最後の型だ――――! くらえ真皇――――ッ!」
奏汰は叫び、そのまま巨体の果てすら見えぬ闇の巨躯にその刃を振るった。
その光はたしかに闇を切り裂き、漆黒の中に七色の光を取り戻した。
しかし――――。
どこまでも広がる闇の世界。その一角で確かに
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