勇者、帰れず
「うえーーん! おかあちゃーん!」
「オオオオオオ……」
炎と煙に囲まれた道の中央。両親とはぐれて一人残された着物姿の少年の前に、
その筒からは鞭のようにしなる無数の触手が伸びており、そこから
この化け物こそが鬼。徳川の太平を脅かし、人々の平穏な暮らしを打ち崩す
先ほど
一体いつから存在するのかもわからず、なぜ現れるのかもわからない。
分かっているのはただ一つ。鬼がこの世に生きる全ての者たちの敵であるということだけ。
筒状の鬼は目の前で泣き叫ぶ少年を明確な
このままでは、目の前の少年は鬼によって為す術もなく惨殺される。そう思われた、その時――――。
「勇者タックル!」
瞬間、少年の頭上を飛び越えるようにして現れた奏汰の雷撃をまとった体当たりが円筒形の鬼をぐにゃりとひしゃげさせる。
鬼はあまりの威力に
「あ……」
あまりのことに
「よく頑張った……もう大丈夫だからな」
奏汰は怯える少年の頭に優しく手を乗せると、立ち上がって周囲を見回す。
木造の見慣れない形の家が並ぶ大通りに、
「江戸時代、か……。ここから俺が長生きしても、母さんには会えないんだろうな……」
天を
そしてそんな奏汰の周囲に、先ほどの鬼と似た一つ目の鬼たちや、たった今粉砕した円筒形の鬼など、大小様々な化け物がわらわらと群がってくる。
――――この場に現れるまでの道すがら。奏汰は先ほどの少女――――凪から事の次第をあらかた聞いていた。
この場所が、かつて奏汰が住んでいた日本であること。
しかしここは奏汰が本来住んでいた時代とは違う
「ガアアアアアア!」
燃えさかる炎を背に、意味も分からぬ叫び声を上げ、奏汰と少年めがけて迫る鬼の群れ。だが奏汰はそんな鬼たちを前に、ほんの
――――行ってらっしゃい奏汰。今日も学校頑張ってね!――――
ここは日本だ。この世界に女神はいない。
つまり、奏汰はもう異世界に行くことも、元の世界に戻ることも出来ない。
ようやく会えると思っていた。やっとただいまを言えると思っていた。
たとえ地獄のような戦いの日々でも、一度だって忘れたことはなかった。
遠くなった記憶の向こう。奏汰はたった一人、女手一つで
「わかってるよ……たとえここがどこだろうと、俺のやることは変わらないっ!」
奏汰は背負った長剣の
そして全ての邪悪を――――かつて、異世界を滅ぼさんとした大魔王すら破壊した
「……来いっ! お前らの相手は俺だ!」
その叫びと同時。奏汰の姿は
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