第四章 はぐれ鬼の社
廃寺で猫は眠る
行く道で偶然出会った猫から直接手がかりを聞いた三人が向かった先。
それほど時間もかからずに辿り着いたそこは、異様な空間だった。
「ほむ……これは仏僧の領域か。あまり馴染みのない空気じゃが……」
「そうだな……俺も子供の頃はお寺って結構苦手だったんだよな!」
「いやいやいやいやっ!? これどうみてもそういう問題じゃないですよねっ!? 絶対鬼とか悪霊とかそういうのいるやつですよね!? しかもこれ見て下さいよ!?
そう言って分厚い紙束を取り出し、本来であればこの場所に当たるはずの地図を広げて見せる
その部分には確かにどこにでもある
三人の前に突然現れたその廃寺は、あたりが真っ昼間だというのに紫色の
本堂の扉は無残に崩れて開け放たれ、生暖かくねばついた、じっとりとした風が内側から
しかもその上、さらなる追い打ちをかけるように軒先で羽を休めるずらりと並んだ何十羽ものカラスの姿と、建物のあちらこちらで巨大な巣を張るまだら模様の蜘蛛の姿がやけに目立っていた――――。
「ひええええええ!? 無理無理無理無理ぜったいむりいいいいいい!? こ、こんなに怖がらせて、ぼ、ぼぼぼぼぼ、僕を殺す気ですかっ!? こ、怖いです! 入れません! 許して下さい! あ! じ、持病の
「大丈夫か新九郎っ!? お前病気だったんならそう言ってくれれば……っ!?」
「にゃはは! そう案ずるでない新九郎よ! 後で
「へえ~……そうなんですか。それは知りませんでした。いえ、実は僕全然
非の打ち所もないその美貌を散々に歪め、必死の形相で抵抗する新九郎だったが、
「大丈夫だよ新九郎! それにほら、一人でここで待ってたりしたら多分もっと怖いと思うんだよ。絶対に俺が守るから、皆で一緒に行こう!」
「はうぅ……言われてみればそうかも……。わ、わかりましたぁ……っ」
まるで水場に連れて行かれるのを嫌がる猫のように目を剥いて暴れる新九郎だったが、安心させるように微笑む
「――――にゃあさんっ!?」
「こいつは……!? どうなってるんだこれ!?」
「あわわわわ……っ!?」
ギイギイと木材の
「なんじゃこれは!? 一体どうしてこんなことになっとるんじゃ!?」
「――――待ってくれ凪! 俺がやってみる!」
悲痛な表情で一匹の三毛猫に駆け寄ろうとする凪だったが、奏汰はそんな凪を制すると、
「奏汰……? それは……お主が時折怪我を治す時に使っておった……」
「勇者の緑だ。実はこれ、本当は怪我を治す力じゃなくて、呪いを解いたり毒を消したりする力なんだ。もしこの猫たちがなにかの力でこんなことになってるなら、これで――――」
「……にゃあ?」
「にゃあさんっ!?」
するとどうだろう。奏汰の光を浴びた三毛猫はまるで何事もなかったかのように目を覚ますと、目の前の凪と奏汰をその丸い瞳でしっかりと見上げ、それなりに元気な鳴き声を上げたのだ。
「良かった……っ! どうやら怪我などもないようじゃ……! ありがとう、奏汰よ……」
「ふう……。なんとかなって良かった。けど――――」
「はわわわ……!? お、お二人とも、あれ見て下さい! あれっ!」
無事に何事もなく目を覚ました猫の首元を優しく撫でながら、ほっと
しかしそんな二人をよそに、怯えながらもなんとか二人に付いてきていた新九郎はその全身をガタガタと震わせ、今にも腰を抜かしそうな勢いで崩れかけた寺の奥を指さした。
「なんじゃ……? これは……?」
新九郎の指さした先――――。
そこにはぼんやりと――――しかしはっきりと実像をもってその
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