第二部
第一章 お江戸の少年剣士
勇者、初夏を迎える
神社を囲む
それと同時に空気はどこか湿り気を帯び始め、乾燥と強風が江戸に住む人々を悩ませる時期はようやく一段落となる時期を迎えていた。
「にょにょ! どうじゃろう奏汰よ。こういう感じのをな、町のあちこちに貼るのじゃ!」
「おお!? 読めないけどなんか凄いな!」
そしてそんな穏やかな時分を迎えた神代神社の
大きな
「じゃろじゃろ? これはな、奏汰が始めると言っていた商売を宣伝するためのものじゃ。『鬼にお困りの皆々様。神代神社の勇者、
「おおおお……! 凄くいいなそれ!? でも、どんなところに貼るのがいいんだ?」
「そうじゃな……。今ならやはり
凪はそう言うと、ぴょんと跳ねるようにしてまだ敷かれたままの布団から飛び起きると、並べられた奏汰と自分用の布団を手際よく畳み、ぽいぽいと縁側に並べた。
二人の布団はいつもであれば部屋の隅に重ねるのだが、今日は天気も良いので日に当てておくつもりなのだろう。
「
布団の片付けを終えて広々とした板敷きの部屋に、凪は早々と
「なるほど。やっぱり前触れもなくいきなりどっかから来るってのが厄介過ぎるな。 ――――あ、そういえばちょっと凪に聞きたかったんだけど」
「にょ? なんじゃ?」
奏汰もそこに味噌漬けにされた魚の切り身を添えたりと手伝っていたが、突然ふと思い出したように凪に尋ねた。
「江戸で鬼を退治してるのは、凪やあやかしのみんなだけなのか? 江戸時代っていうなら、なんだっけ……たしか、お殿様? ってのがあるだろ? その人たちは鬼と戦ってくれないのか?」
「ほむ、そうじゃな。確かにお上も鬼は退治しておるぞ。ただし――――」
凪は奏汰の問いにほむほむと
そして自分と奏汰が座るための敷物を置くと、話の続きを待っていた奏汰にも座るように
「お上にも
「おるのじゃが?」
「江戸はとてつもなく広い。そしてその広い江戸の内、武家の者達が住んでいる場所が七割。あやかしや他の町民が住んでいる場所は残りの三割じゃ。
凪は目の前に並べた食事には手をつけず、実に洗練された正座姿勢で奏汰を見つめ、
「なのでな、お上は武家の領分を守るので手一杯なんじゃ。むしろ、今のお上はよくあやかしや
「そうなのか。じゃあ、その討鬼衆って人たちはかなり強いんだな!」
「まあの。流石にそこそこやりおるぞ。しかしの……一番強いのは将軍様自身じゃ」
「将軍様が一番強い……?」
将軍自身が一番強い。
凪の発したその信じがたい言葉に、奏汰は首を
「奏汰もきっと将軍様を見たら驚くこと間違い無しじゃ。お主も信じられん程強いが、将軍様も
「へええ……! 王様が自分で自分の国を守ってるなんていいな!」
凪の話に、目を輝かせて
「にゃはは。流石にずっとそうだったわけではないぞ? あくまで今の将軍様がおかしいのじゃ。 ――――ほれ、そろそろ食べぬか? 私もお腹が空いたのじゃ!」
「はは、わかった! 俺もいつか会ってみたいな!」
奏汰はそう言って笑うと、凪と共に両手を合わせ、大きな声でいただきますの挨拶をするのであった――――。
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