縁側の勇者
「傷の具合はどうじゃ奏汰よ……? 今回も結局こうなってしまったのう……」
「うーん……俺も反動の少ない赤メインで戦ってみたりしたんだけど……」
大きな
武家街への鬼の襲撃を
空から降り注ぐ満月の光が庭に敷き詰められた白く滑らかな砂粒に反射し、庭全体が白くぼんやりと輝いているように見えていた。
ここは江戸城すぐ横にある
視線をぐるりと横に向ければ、江戸城の
「やっぱりあの喋る鬼が強いんだよ! あれだけ強いと、抑えてどうこうってのじゃ無理がある! 俺ももっと強くならないと……!」
「
苦々しげにそう
人類としての限界を遙かに超えたと言える超勇者の奏汰が加わってもこれなのだ。凪やあやかし衆、そして
「あの鬼――――俺と凪が倒したおっさんの鬼の奥さんだって言ってた」
「そうか……鬼にもそういうのがあるのじゃな。 ――――初耳じゃ」
「凪も知らなかったのか?」
「
呟くように言った奏汰の言葉に、凪はその感情を
凪が見せたその様子には、凪自身が鬼に対して甘さを持たぬよう、
「その話を聞いて奏汰はどう思ったのじゃ? 鬼を哀れに思ったりしたかの?」
「そうだな……。正直、あの場でそんな余裕はなかったよ。ただ――――」
「ただ?」
凪は奏汰を疑うでもなく、責めるでもなく。その澄んだ青と黒の混ざり合った瞳で奏汰を見つめながら尋ねた。
「――――あのおっさんはむちゃくちゃ強かった。鬼ではあったけど、最後まで卑怯なこともしてこなかった。そして俺は皆を守る勇者として、人の側に立って正々堂々あのおっさんと戦った。その答えはもう――――俺の剣が出した」
奏汰は僅かに考えた後、一つ一つ言葉を選ぶようにして正直に伝えた。
「それに――――そんなことで俺がうだうだしてたら、あのおっさんだって怒るだろ。そんな半端な気持ちで命を奪うなんて、誰に対してだって最悪だよ」
「なんとも……戦国の世の武士のような物言いをする奴じゃな奏汰は……」
「まあ、俺も今まで色んなのと戦ったからなぁ……」
奏汰はそう言って縁側に足を投げ出したまま、ごろんと後方に寝そべって空に浮かぶ月を見上げた。
凪は何も言わず、戦いしか知らずに長い時を過ごしてしまった奏汰を
「――――あの、
「ん? ああっ、
その時、縁側に座る二人の背後の部屋から、様子を伺うようにして
新九郎の手首や首元には手当の跡が見えていたが、本人の顔色自体は良く、大きな
「あ、はいっ! その……あの……剣さん……いえ、奏汰さんのお陰で……こうして生き延びることができました……。僕、お二人に御礼が言いたくて……っ」
「いいよそんなの! 俺一人じゃ町の人を守り切れなかっただろうし、とっても助けて貰ったよ! なんかさ、今日初めて会ったにしては俺たち三人って結構上手く戦えてなかったか?」
「ほむほむ。私もそう思うぞ
「ええっ? そ、そうですかっ!? やっぱり!? やっぱり僕の力が必要ですかねっ!?」
「ああ! これからもよろしくな、新九郎!」
「ああああ! 奏汰さああああんっ!」
しかし新九郎がしおらしかったのもそこまで。
奏汰と凪が口々に新九郎の功績を
「でもさ、新九郎が女の子だったのには驚いたよ! てっきり男だと思ってたからさ!」
「それはそうじゃな。男が女の格好をするのは
「あ……はいっ! その……それについては僕の家の都合で……出来れば、僕が女だということについては、内密にして欲しいな~……なんて……」
奏汰と凪が新九郎の性別について言及すると、新九郎は気まずそうに目を逸らし、落ち着かない様子でもそもそと肩を左右に揺らした。そして――――。
「――――そのことについては俺から話そう。構わぬか? 新九郎」
「あ、父上……っ!?」
その時、庭の
三人が同時にその音の方向へと目を向けると、そこには丁寧にしつらえられた
「お初にお目にかかる。
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