真の黒き闇
「教えてくれ大魔王――――っ! 鬼ってなんなんだっ!?」
夕暮れの光に照らされた
赤くなった太陽の下、神代神社の
奏汰は僅かに息を切らしつつ、大魔王の円盤状の肉体に手をかけて詰め寄った。
――――すでに、鬼の門から続いた
門とその奥の空間を構築していた四の十六が事切れたことで、あのホールと門は共に崩壊を始め、奏汰達は四の十六に寄り添っていた子猫を抱え、外へと脱出した。
奏汰達も気付かぬうちに閃光と共に消え失せた六業。
奏汰は念のためあの場で勇者の白を使って瞬間転移を試みたが、勇者の力はなんの反応も見せなかった。
つまり、少なくともあの場で奏汰達と交戦し、傷を負った六業という存在はもはや――――。
「――――なぜそんなことを知る必要がある? 鬼は人を襲う。対話も不可能だ。そのような相手のことを深く知ったところで、貴様は一体どうするというのだ?」
「違う……っ! さっき俺が会った鬼は猫を助けてたんだっ! 俺たちを見ても襲おうともしなかったっ! たしかに前に話したおっさんとは戦うしかなかったけど――――あいつとは、四の十六とはもしかしたら仲良くなれたかもしれないんだっ!」
「奏汰……っ」
そんな奏汰の姿を、
凪の隣に立つ
「変わらぬな…………。貴様はこの世界でもそうやって生きていくつもりなのか? なぜだ? なぜいつも自分から
「話せ――――大魔王っ! それをどうするかは、俺が決めることだッッ!」
ぎりと歯を食いしばり、それでも掴みかかった大魔王に
それは、凪が初めて見る奏汰の怒りだった。
そう――――奏汰は怒っていた。明確な怒りを向けていた。しかしそれは大魔王にではない。先ほど戦った鬼に対してでもない。
奏汰はすでにその本能で――――七年間もの間、地獄のような異世界でたった一人、人々の希望として戦い抜いた超勇者としての
「ならば話そう、勇者奏汰よ――――」
奏汰の
「――――鬼の正体。それは奴らの
――
――――
――――――
「アァ……ヒナ……ちゃん……」
ズタズタに傷つき、
その青年――――それは
ホールで光の中に呑まれた彼は気付けば一人、今にも消え去りそうな有様で江戸の町外れを
「ダメだなァ……思い……出せないなァ……。あと……あともう少しっぽいんだけどなァ……」
あの時、子猫を必死に守ろうとする四の十六の姿を見た六業の中で何かが壊れていた。奏汰達との死闘の末、彼の命が尽き果てようとしていたことも大きく影響していたのかもしれない。
「でも……でもさァ……。名前……! キミの名前は……思い出せたんだよなァ……ヒナちゃん……キミの名前は……ヒナちゃん……」
まだまだ冷たい流水にその身を
そしてずっと忘れていたその名を
「なんで……忘れてるんだ、おれは……。なんで、思い出せないんだ……おれは……」
あの戦いからこの場まで、六業は何度も、何度も自分の中の記憶を
主である
――――しかし、そこから先は闇しかなかった。
六業の記憶は闇に覆われていた。闇に阻まれ、何一つ見ることも、感じることも出来なかった。だがしかし、今の六業にはすでにわかっていたのだ。
その闇の向こうに光があることを。
何よりも大事だったはずの温もりがあることを。
もう決して届かない世界があることを――――。
「ちくしょう……誰だァ……? 誰かが、俺に何かしやがった……ちくしょう……ちくしょう……」
六業の視界がにじみ、ぼやける。
それは、彼の持つ感覚器の終わりによるものだったのだろうか。
伸ばされた六業の手はついに何者をも掴むことなく、やがて力なく水面の中に崩れた――――。
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