すでに守り抜いた者たち
「うおおおおおおお――――ッ!」
「クハハハハハッ! そうか、貴様が超勇者か! 会いたかったぞ最後の勇者よ! すでに貴様の名は妾も知っている――――神すら恐れたその力、とくと見せて貰おうぞッ!」
江戸市中直上。夜空そのものを覆うほどの巨大さを誇る超魔王オミクロンめがけ、一条の光芒と化して突き進む
オミクロンの全長はおよそ二千メートルといったところか。その身に纏う禍々しい衣のはためきがオミクロンの全体像を掴みづらくしていた。
オミクロンは恐れず立ち向かってくる最後の勇者――――
それはその全てが狙い違わず奏汰めがけて放たれ、直撃すれば勇者パワーを失った奏汰では致命の一撃となるは必至。しかし――――!
「勇者の力がなくたって――――!」
勇者パワーを失った今も、わずか一飛びで空高く飛翔加速する奏汰は眼前の熱線をまっすぐに見据える。そして自らの手の中で熱を帯びたように奏汰へと寄り添う勇気の聖剣、リーンリーンを正眼に構えた。
「俺は――――皆を守ってみせるッ!」
「ほう!?」
瞬間、奏汰を襲う無数の熱線はほぼ同時にその全てが超魔王オミクロンめがけて跳ね返された。それは奏汰が
奏汰は相手の力を受け流す技である旋転を聖剣リーンリーンを用いて行使し、眼前に迫る破滅の一撃を全て超魔王へと反射したのだ。
「ホッホホホ…………もし貴様が妾の力を避けれていれば、眼下の町諸共粉微塵になっていたであろうにな。さすが、最後の勇者と呼ばれるだけある――――」
「それだけでは――――っ!」
「――――ないですよッ!」
奏汰によって反射された自身の力を事も無げに打ち払い
「江戸を守るのは勇者だけではないのじゃ! この地に根付いた神代の力、受けて滅せいッ! 神式――――
「最初から奏汰さんは貴方の攻撃を引き受けるつもりだったんですよっ! つーまーり! 貴方を倒すのはこの天才美少女剣士である僕ッ! も……もうすぐ
その閃光の中、二人の少女が超魔王オミクロンめがけて飛び出す。自身の周囲に無数の符を連ねて飛翔する
すでに奏汰が飛び込む前に成されていた打ち合わせ通りに、二人は互いの渾身の一撃を超魔王へと叩き込む。
「ぬ――――!? ググ――――っ!? ただの人が、妾の魔力障壁を破るというか――――!?」
先に飛び込んだ吉乃の一閃が超魔王の障壁を切り裂く。防御を崩された超魔王の巨体に、凪の放った万雷の閃光が降り注ぐ。さらには――――。
『こちらアメリカ第二征伐艦隊ココペリ。幕府軍からの砲撃許可を確認。標的が上空にいてくれて助かりました、皆さんの住む町を壊さずに済みます――――
「ホホホ……こういう図体の手合いが相手なら、我らあやかしの腕の見せ所――――
「カーッカッカッカ! 的がデケぇからただ撃つだけて百発百中よォ! 俺様の拳銃捌き、見せてやらァ!」
凪の一撃を受けて大きくその体勢を崩した超魔王めがけ、四方から無数のエネルギーが叩きつけられる。
アメリカ第二艦隊の旗艦オメテオトルから放たれたエネルギーの渦は、超魔王の肉体を構成する原子そのものを崩壊させ、この星を消し飛ばさぬよう力を抑えて放たれた玉藻の尾の一振りは超魔王の衣を散々に引き裂いた。
さらにはその漆黒の翼をはためかせて空を覆う数十の力ある天狗たちの強烈な突風と、それに乗じて放たれた
「クク……! 思っていたよりやりおる。だがそうでなくては面白くない。この超魔王オミクロンの望みは全ての光も闇も消し去ること――――! 故に、始原の神が消えて自由となった今、こうして他の地には目もくれず、最も強い光を放つこの地へとやってきたのだからなァ!」
「ふざけるなよっ! なんでそんなことするんだ!? 俺が前に戦ったドーナツ大魔王だって、もうちょっとマシなこと言ってたぞっ!」
「妾は光が憎い! かといって闇も許せぬッ! どちらも妾から見れば同じよ! 徒党を組み、群れ集まり、惰弱な笑みを浮かべて身を寄せ合う! 自らの意に沿わぬ存在を敵と見なして消し去りながらなァ!」
無数の閃光に焼かれながらも超魔王はその身から膨大な魔力を放出すると、自身の巨大な両腕を大きく広げ、そこから漆黒の粒子を周囲へとばらまく。
ばらまかれた粒子はすぐさま異形の怪物と化してその輪郭を露わにすると、眼下の江戸や周囲の戦士たちめがけて襲いかかっていく。
「ゆえに! 妾は光でも闇でもないッ! ただの圧倒的力として君臨し、あまねく全てから争いも憎しみも全てを消し去ってくれよう! 能なしの神が永年の時をかけても実現できなかった理想郷を、妾が打ち立てるのだ――――ッ!」
現れた無数の怪物たちとすぐさま交戦状態となる江戸市中。至る所から火の手が上がり初め、アメリカ艦隊の陣容周辺でも次々と対空砲火の火線が上がった。
「そうかよ――――っ! あんたのやりたいことはまあまあわかった! けど――――!」
「それはそれとして、私らもはいそうですかと滅ぼされるわけにはいかんのじゃ!」
「そーですっ! 光だとか闇だとか、そんなの僕たちの
混迷を極める江戸の町。燃えさかる炎と夜空の下、地上へと戻った奏汰たち三人は各々の言葉と共にその手を掲げ、上空の超魔王オミクロンに鋭い眼光を向けた。
「――――ってわけだから! 俺たちにも俺たちの事情があるんだっ! あんたの話は後で聞くから、とりあえず一旦大人しくしてもらうぞっ!」
刹那。そう叫んだ奏汰の持つ聖剣リーンリーンに、かつて奏汰が勇者だった頃とは明らかに異なる、鮮烈な虹の輝きが灯った――――。
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