弟子になった勇者
生い茂る木々に囲まれた
季節はすでにじっとりと汗ばむような時期になろうとしていたが、木々によって直射日光が
そんな神代神社の
「ここですっ!
「ぐわーーっ!」
「ふぅ……これで一本ですね。どうですか奏汰さん!? これが僕が父から学んだ
「本当に凄いな!? 俺が今まで戦ったことのある剣士って、みんなむちゃくちゃ動くか全然動かないかのどっちかだったんだけど、新九郎の剣は二つが同時にくる!」
「フ……フフフフ!? フンフンフーン!? そうでしょうそうでしょう!? 静と動、相反する二つの動きを同時に行うことこそ天道回神流の
「おおーーーーっ!?」
見事奏汰から一本を取り、得意満面のドヤ顔で胸を張る新九郎と、目を輝かせてぱちぱちと拍手する奏汰。
新九郎がドヤるのはいつものこととはいえ、実際に早朝から始まった二人の打ち合い稽古で、奏汰はまだ一度も新九郎に有効打を与えることが出来ていなかった。
「にゃはは! さすがじゃな新九郎。奏汰がお主を剣の師に選んだときは正直不安だったんじゃが。なかなかどうして、良い先生っぷりじゃの!」
「えへへ……そうですかっ? やっぱり
そこに
神社の
「実は町で最初に新九郎の剣を見たとき、俺に足りないのはこれなんじゃないかなって思ったんだ。前にいた世界でも何度かそう思うことはあったんだけど、教えてもらう時間がなくてさ」
「フッフッフ……! 奏汰さんのそのお考えは素晴らしいですよっ! 僕も奏汰さんの戦いを間近で見て凄いとは思いましたけど、あまりにも無駄な動きが多すぎます!」
「まあの……。しかもその上、少々の怪我などお構いなしときておる。そんな戦い方では命がいくつあっても足りんぞ……もっと自分を大事にして欲しいのじゃ……!」
「うぐぐ……ごめんなさい。反省してる……」
得意げな笑みと共に奏汰の欠点を指摘する新九郎と、それはそれは本当に辛いとばかりに
その態度こそ違うものの、二人から同じ欠点を問題視された奏汰はしゅんと肩を落として頭を下げた。
事実、奏汰はすでに異世界で大魔王と戦っていた頃から自身の弱点には気付いていたし、仲間たちからも何度も指摘されていた。
しかし
結局、そのまま奏汰は自分自身の力任せの戦い方を異世界で最後まで修正することが出来ず、今に至ってしまったのだ。
「――――それでですね。僕の天道回神流なんですが、先ほども言った通り静を司る
「うんうん……実際戦ってみると動きも読み辛いし、途中でぐにゃぐにゃする」
「はい。でも奏汰さんはずっと一刀流で戦ってこられたでしょうし、奏汰さんの強みは体術の強さにもあると僕は思うんです。なので、無理に天道回神流の型を当てはめるよりも、基本の
凪から渡された手ぬぐいで上気した肌に浮かぶ大粒の汗を拭いつつ、新九郎は奏汰の肩や腕に自身の手を添え、基本となる構えを簡単に二人に説明していく。
「しかしなんともあれじゃな。新九郎よ、お主他のことは
「でもさ、いきなりこんな無理言って新九郎は大丈夫だったのか? 新九郎ってたしか
「あっ! そ、それは全然! 大丈夫ですっ!
だがそこで奏汰の発した当然の疑問に、なぜか新九郎は突如として焦ったように頬を染め、わたわたと目を逸らして心配ないと必死に弁明した。しかし――――。
「そっかそっか! 迷惑じゃないなら良かったよ! それじゃあ、これからもよろしくな! 師匠っ!」
「は、はわわっ……はわわわ!?」
ついついぴったりと身を寄せ合って奏汰の手を取っていた新九郎は、不意に間近で向けられた奏汰の笑みに石化したように硬直すると、耳先まで真っ赤にし、弾かれるようにしてその場から後方に飛び退いた。
「ちょ、ちょ、ちょっと顔洗ってきますーーーーっ!」
そのままぐるぐると目を回し、稽古中よりもその美しい顔を上気させた新九郎は、そのまま
その場に残された二人は、突然の新九郎の慌てようになんのことかと目を見合わせ、
「……いきなりどうしたんじゃ新九郎は? 相変わらず掴み所のない奴じゃの?」
「まあ、最近結構暑いからな! 俺も後で顔洗ってこよっと!」
「にゃはは! なら私もそうするのじゃ!」
そう言って笑い合う凪と奏汰。あまりにも平和で穏やかな神代神社を巡る季節は、間もなく本格的な梅雨時を迎えようとしていた――――。
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