第78話 次章の前に
――――冒険者ギルド――――
いつもは騒がしいはずの建物。
その人物たちが足を踏み入れた瞬間、誰もが口を噤んだ。
彼等の観察眼が、何らかの危機感を感じ取ったのだろうか?
真っ直ぐ、受付窓口に向かうのは3人。 全員が奇妙な仮面をつけていた。
たまにいる。 脛に傷を持ち、極端に顔を隠しがる冒険者。
だが、3人が全員となると――――異形。
異形の集団だと言わざるを得ない。
「……すまない」と1人が受付嬢に声をかけると……
「はい、お待たせしました。あら、お久しぶりですね。戻ってきてたのですか?」
「……人違いではないのか? 俺たちは、冒険者として登録するために来た」
しかし、仮面の男の言葉に受付嬢は「???」と本気で意味がわからない様子を見せた。
「……? ギルドでは、冒険者の再登録は禁止されていると最初に説明したと思いますが?」
「……君は、俺を誰だと勘違いしているのでないか?」
「いいえ、勘違いなんてしてませんよ。仮面なんて付けて試してるんですか? レオさん?」
「……」
「えっと……レオさんの様子がおかしいのですが……どうしたのですか? シオンさん? ドロシーさん?」
受付嬢は、背後の2人にも話しかけたが、2人は気まずそうに視線を受付嬢から背けた。
冒険者ギルドの受付嬢。
彼女は空気を読まない。 ――――いや、察しが良すぎるのかもしれない。
そうでなければ荒くれ者たちである冒険者と円滑な交流を築けない。
「……」と受付嬢。
「……」とレオた――――いや、仮面をつけた謎の人物たち。
会話が続かない。 やがて、合点がいったとばかりに受付嬢が手を叩いた。
「あっ、気まずいのですね?」
「むっ?」
「噂に聞いています! なんでも、ジェルさんと戦って負けた方が、この町から出ていくって約束を――――あっ! だから、仮面をつけて有耶無耶にしようとしてるんですね!」
「……いや、そんな事は、そもそも俺はレオという名前では……」
まるで言い訳をしているかのように、その声は小さくなっていく。
しかし、受付嬢は反論を許さない。
「見たかったなぁ。確か、ギルドの裏で決闘したんですよね? なんで、負けたんですか?」
笑顔の受付嬢。 しかし、その言葉は冒険者ギルドを凍り付かす。
ぶっちゃけわかっていた。
他の冒険者たちだって、仮面の男たちが入って来た時にはレオたちが帰ってきた事に気づいてた。
しかし――――
(マジかよ! 普通、仮面をつけてたら気づかないフリするだろ!)
(負けた理由を聞こうとするなっ! 怖えよ!)
(どうする? これ? 正直、逃げ出したいだけど?)
冒険者たちは口に出さず、視線だけで会話をしていた。
そんな地獄のような空気感。 受付嬢は思い出したかのように、こう言い出した。
「そうそう、知ってましたか? ジェルさんたちは遠征に出かけているので、暫く会えませんよ」
「なにっ! ……いや、俺はジェルなんて奴は知らないが、どこに遠征に行った?」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
レオた――――仮面の男たちが冒険者ギルドから出る。
仮面で顔を隠しても、その不機嫌さは隠しきれていない。
そんな彼等に
「やっほ」と呑気に声をかける女性がいた。
「どうだった? 久しぶりに本拠地に戻った感想は? それと――――ジェル・クロウの情報は?」
「――――」と男は、仮面をずらして、僅かに素顔を覗かせた。
隙間から見える男の素顔は――――仮面の男の正体は、レオ・ライオンハートだった。
ならば、残りの2人は――――
「仮面の意味、なかったわね」と仮面を外すと、ドロシーだった。
「やはり、アスリン……お主も一緒に来て、認識阻害の魔法を使えばよかったのではないか?」
そういうのはシオンだ。
仮面の男たちの正体は、この町で最強の冒険者集団と言われていたB級冒険者 レオ・ライオンハートとその仲間たちだったのだ。
そして、彼――――レオ・ライオンハートは、
「ジェルの奴は遠征だ。別の国に向かったそうだ。どうする? 追いかけるか、それとも戻ってくるのを待つか?」
「……遠征」とアスリンは考える。
「別の国と言う事は、古代魔道具の収集に向かったと推測するのが妥当かしら?」
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