第31話 翌日の冒険者ギルド


 ジェルは冒険者御用達の宿屋で部屋を借りている。

 そこにシズクも同じ宿を選択していた。


 そして、冒険者ギルドの騒動があった翌日────


「とりあえず、冒険者登録だけなら私、1人でも大丈夫だから」


 そう言い残して、シズクは冒険者ギルドに向かった。


 残されたジェルは


「……嫌な予感がする」


 冒険者として、死線を掻い潜ってきた感なのだろうか?


 漠然とした不安に襲われた。


 それから


 「ただいま、帰ってきたぞ!」とシズクの帰宅。


 冒険者ギルドで登録して帰ってくるには、いささか時間がかかりすぎていた。


「────いや、そんなことより! どうしたんだ? ボロボロじゃないか!」


「大丈夫、大丈夫……ボロボロに見えるのは、汚れたからそう見えてるだけだよ。返り血でな」


「すごい、何も大丈夫に聞こえない! 急ごう!」


「急ぐって? どこへ、なにを?」


「まだ間に合う! 急いで冒険者ギルドに出頭すれば、賞金首にならなくてすむかもしれない!」


「いや、本当に犯罪行為はしてないから……

返り血は、正規の決闘によるものだよ」


「決闘!? 決闘って誰と戦ったんだ?」


「誰って……そりゃ全員だよ」


「全員???」


「昨日、絡んできた冒険者連中の1人1人に決闘を申し込んで……分からせてきた」


 シズクの話はこうだった。


 朝、冒険者ギルドに到着したシズクを向かえたのは好奇の視線。

 

 それは複数人の冒険者たちによるものだった。


「奴だろ? 昨日、ジェルと一緒にいたやつは」


「見かけない顔だな。おそらく新人だろうな」


「近隣の町からの流れ者だとしても、腕利きなら名は伝わってくるはず」


「大方、迷宮で死にかけたジェルを助けたから一緒にいる」


「ケッ……運の良い奴だ。偶然、助けたのがB級冒険者とはな」

 

 それをシズクは


「……(ケンカを売っているのか? わざと聞こえるように喋っている。よし! 登録が終わったら……)」


「あの……」と窓口から受付嬢。


「ん? どこか不備があったか?」


「い、いえ、これで冒険者ギルドへの登録は終了となります」


「そうか、ありがとうな」


「それから……」


「?」


「冒険者の方々は、善くも悪くも自身に正直な人ばかりなので、失礼な言葉で気分を悪くなされるかもしれません……」


 受付嬢は、しっかりとシズクを見つめてから、こう続けた。


「私もギルドに関わる1人として、礼を欠く発言に謝罪をさせていただきます」


 深々と頭を下げる受付嬢。


「へぇ~ 気に入ったぜ、アンタ。それに良いことを教えてもらった」


「良いこと……ですか?」


 キョトンとした表情で小首を傾げる受付嬢。


 シズクは、こう言った。


「冒険者ってのは、善くも悪くも自身に正直な連中なんだろ?」


 彼女は嗤う。


 本性である魔物的な表情で嗤う。



 

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