第32話 冒険者たちの実力

 シズクは手を叩いて音を出す。


 大きな音だ。 それも、ゆっくりと――――1回、2回、3回と繰り返した。


「あ、あの……何をしているんですか?」と受付嬢。


「今は注目を集めてるだけさ。ほら、そこの奴、昨日いたよな? お前も、お前も、お前も……」


 指を刺された冒険者は、驚いた顔を見せるも一瞬だけ。 


 奇行とも言えるシズクの行動に注目した。


「よし、頃合いか。 ジェルを仲間に引き入れたい奴、ちょっと表で腕前を見せてくれないか? 私に勝ったらジェルに紹介してやるよ」 


 冒険者。どいつもこいつも腕に自信のある連中だ。


 黙って立ち上がる者もいれば、気合を入れるために奇声を上げる者もいる。


 無論、ギルドにいる全員が全員、ジェルを引き入れたいわけではない。


 しかし、好奇心を揺さぶられ見学目的に表に出る者……


 結果として、全員が外に出た。 これにはシズクも苦笑した。


「いやいや、これは流石に想像以上の人数だ。訓練場だったか? そこに移動しようぜ」


 ぞろぞろと集団で移動する光景は、どこかシュールであったが……


 訓練場。 ジェルとレオたちが戦闘した場所だ。


 そこには練習用の剣が常備されている。 もちろん刃は潰されて切れ味はない。


 シズクは、練習用の剣を自分用に1つ持つと、もう1つ――――


「ほれ、まずはアンタからだ」と近くに立っていた男に投げて渡す。


 ざわ…… ざわ……


      ざわ…… ざわ……


 冒険者たちがざわつき始める。


 どうやら、シズクが選んだ男は冒険者でもかなり有名な男らしい。


(……だろうな。この中じゃ上から三番目くらいの実力者ってとこか)


 シズクは、わざと最初に強者を選んだ。


(ジェルは、B級冒険者であるレオとドロシーとかいう奴に2対1で圧勝。間違いなく、結果だけ見れば圧勝だった)


 ジェルとレオたちの戦い。それを見てからシズクにはある思いが芽生えた。


(私が堂々とジェルの相棒と言えるとしたら……ここにいるB級以下の連中を圧倒しなければならない!)


 相対する男は、そんなシズクの心中を知るよしもない。


 しかし、彼女から発せられる圧力に感じるものはあったのだろう。


「――――っ! 俺の名前はアレク。剣士だ」


「私の名前はシズク。そうだな……魔族とでも言っておこうか」


「魔族? なんだそりゃ? 他国じゃそういうのがあるのか?」


「さて、どうだろうか? 仲間になったら分かるかな」


「へっ! 上等よ」とアレクは剣を構えた。


 しかし、シズクは構えない。 それどころか剣を持とうとすらしなかった。


「どうした? なぜ、剣を持たない」


「持つよ。アンタの実力が相応しければね」


「――――挑発のつもりなら高くついたよ。今の発言は」


「じゃ、私に思い知らせればいい。 私はアンタの実力を知らないのだか――――」


シズクが言い終えるよりも早くアレクが動く。 


 不意打ち気味なタイミング。 瞬時に間合いを縮める速度。


 その2つが重なり、初弾がシズクを襲う。  


 

    


       


 

  

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