第33話 アレクの敗北

 間合いを縮める。


 言ってみれば、ただ前に走るだけの技術。


 しかし、剣士に取ってみれば、


 ただ前に走るだけの技術が、剣士としての強弱をハッキリと分けるほど重要性。


 アレク本人も――――


(俺の『縮地』は、近隣最強の剣士であるシオンから見て盗んだ東洋の奥義。そのシオンが第一線を離れた今――――俺が最強の剣士だ!)


 高速で移動して、振り上げた剣を下げる。


 余計な物を削げ落とし、より速度を欲した一撃は、まさに必殺と言える。


(刃を潰したとは言え、鉄の剣。死んでも文句は言うなよ!)


 異音が響く。


 何かが潰れるような音。グチャとも、グシャとも、聞こえる。


 だが、アレクの一撃はシズクに届いていなかった。


 何が起きたのか?


「――――」と大きく目を見開いたアレク。


 彼の口から――――悲鳴が飛び出した。


「うっ、うぎゃああああああぁぁぁ……がっ、がっがががぁぁッ!」


 そのまま、地面に倒れて転がる彼の姿。 それを見る冒険者たちも状況が分からず困惑する。


「いっ、一体何があったんだ?」


 そんな中でも、上位の冒険者は攻防を理解していた。


「ふん、アレクめ。自分の技に溺れて、自滅したか」

 

 大柄な男が呟く。男の後ろには多くの仲間たちが控えている。


 男の名はラカン。世界でも最大規模の冒険者集団のトップだ。


「ラカンの旦那、もう少し解説をお願いしても? あっし等、魔法畑の人間にしてみたらチンプンカンプンで」


 ラカンの横に立つ老人は、魔法使いを中心とした冒険者集団の頭目。名前はリンカーという老人だ。


 ラカンとリンカー…… レオがいなくなった事で冒険者の覇権を争う両者だった。


「……」と無効でリンカーを一瞥したラカン。

 

 やがて、諦めたように説明を始めた。


「アレクは間合いとタイミングを狂わされたのだ。アレクは、自分から不意打ちをしたつもりだろうが……あのシズクという新人は自ら隙を見せて望んだタイミングでアレクに打たせた」


「ほう……戦いの機微ってやつですかい?

いくら早くても、打つ場所もタイミングを初めからわかってたら、やりたい放題って感じの?」

 

「うむ、その通りだ」とラカン。


 彼の説明に加えるとするならば、シズクの構えにも秘密があった。

 

 重心を後方に残し、それでいて片足を大きく前に出す。


 アレクの攻撃に合わせて体重移動で上半身だけを動かした。


 これにより、距離感を狂わされたアレク。


 シズクに振り下ろされたのは、細くも薄い剣先ではなく、大きく鍛え上げられたアレクの両腕。


 剣先と腕ならば、後者の方が受けるには容易い……そう言うまでもない。


「それでラカンの旦那。アレクは、何をやられてダメージを? 今も立ち上がれないみたいですが?」


「よく見よ、アレクの足を」


「足ですか? どれどれ……」と目を細めるリンカー。


 それに気づいた時、彼の口から小さな悲鳴が漏れた。






 

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