第34話 動くラカン

 倒れているアレク。 その足は捻じ曲がり明後日方向を向いていた。


「ひぇ~」とリンカーは、痛みを想像した。


「ありゃ治癒魔法でも完治に少しばかり時間がかかりますよ。一体、何をしたんで、あのシズクとかいう新人は?」


「うむ」とラカンは解説を続ける。


「アレクの『縮地』は、体の動きを極限にまで削ぎ落した移動方法。とは言え、攻撃の一瞬のみ、強い踏み込みが必要。そこを狙われたのだ」


「ラカンの旦那……もう少しわかりやすく。結局、シズクってのは何をしたんで?」


「わからぬか? 強い踏み込みの反動。自身の体重の何倍もの負荷が片足にかかった瞬間を狙われたのだ。その瞬間、シズクはアルクの膝を蹴り込んだ」


「……正気ですか? ラカンの旦那にできます?」とリンカーは疑いの視線をラカンに向けた。


「剣を振りかざして高速で接近してくる敵に対して、逃げるどころか前に出ながら、蹴りを放つ。それも『ここッ!』っしかないタイミングで」


「……俺にも完璧にできるとは言えぬ。だが、あり得ぬと言うほどの超絶技巧でもない」


 ラカンとリンカー、2人が話し込んでいる最中にアレクは治療のため運ばれていく。


 上位冒険者であるアルクが一瞬で敗れたため、次の相手に立候補する冒険者は出てこない。


「これでお開きか?」と何人かは口にしたが、シズクは――――


「次、アンタはどうだ? さっきから人の戦い方をペラペラと喋っているみたいだけど」


 そう言って指名した相手はラカンだった。


「ふん、俺は冒険者集団を率いる立場でな。俺の意思で戦うだけでも、お前には想像もできない強い責任に問われるのだ」     


「あっそう。それじゃアンタ以外は……」


「待て。やらんとは言っていまい。俺が動く……それは、確定された勝利がある時だけだ」


「それじゃ、アンタは動けないわけだ。ここで確定させた敗北があるわけだからね」


「笑わせるなよ、小娘。 その減らず口を二度と叩けぬ体にしてやろうか!」


 ラカンはマントを脱ぎ捨てた――――いや、マントだけではなく、鎧までも外す。


「おいおい、これから戦うのに鎧を脱ぐのか? もしかして負ける理由を作っている?」


「安心しろ。俺の体は鋼鉄よりも硬い……それに剣はいらぬ。抜き身の剣よりも俺の拳の方が何倍も危険だからな」


「ハッタリに聞こえないのが怖いね」


「……事実だからな」とラカンは構える。


「俺の名はラカン。修行僧から阿修羅に成った者だ」


「――――アレクも、似たような事を言ってたが、その名乗り上げはやらないといけない決まりなのか?」


「……仕来りだ」


「あっそう。それじゃ、こっちは省略させてもらうぜ」 


 

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