第56話 不死鳥フェニックス攻略戦④

 不死鳥フェニックスは地に落ちた――――しかし、伝説は朽ちない。


 見よ、その大きな顎を! 発生られる咆哮は、文字通りの怪鳥音。


 それと同時に吐き出されるのは火炎の直線が地面を走る。


 回避するジェルとシズク。


「反撃を」と武器を構えたジェルに、「待て」とシズクは止めた。 


「……ほしい」


「何を言ってる?」と困惑を隠せないジェルだったが、シズクは構う様子はない。


「ジェル、お前だって感じてるはずだ。体にかかる圧力――――相対する者の体を制限する威圧感は、追い詰められて益々、増している。何より――――


 シズクは対戦相手を称えるように笑った。


「絶対に折れない天井知らずの矜持。仲間にするならこういう奴に決まってる!」


 反論を許さない断定口調。そんな楽しそうですらあるシズクにつられてジェルも笑みを零した。


「いいよ。それじゃ、どっちが相手をする?」


「私たちの決め事なら、コイツだろ?」


 摘まんだ金貨を親指で弾いた。 


 コイントス。異なる意見を硬貨の裏表で決する取り決め。


 シズクは「表」と豊穣神デメテルの肖像が彫られた側を―――――


 ジェルは「裏」と架空の植物が彫られた側を――――


「裏だな。譲るぜジェル、絶対に勝ってこいよ」


「そうだね、勝ってくるさ」とジェルは装備していたマントを外す。


 ――――否。 魔素を吸収するマントだけではない。


 炎と氷の魔法を強化する杖も、妖刀ムラマサと名刀コテツも地面に突き刺して、その手を離した。


 その奇怪とも言える行動……少なくとも、不死鳥フェニックスに取って理解できぬ行動。 いつの間にか攻撃の手を止め、訝しがるように眺めていた彼は――――


「何のつもりだ?」


「……喋れてたのか? こいつは驚いた」


 ジェルが驚くのもの無理はないだろう。人語を操る魔物なんてドラゴンや吸血鬼ノーライフキングと言った規格外の存在のみ。


 確かに不死鳥も規格外ではあるが……彼が今までの戦いで言葉を発する事はなかったため、喋れないのだろうとジェルは思い込んでいた。

 

「簡単な意思の疎通なら……少なくとも、貴様ら人間よりもうまいと自負している」


「ソイツは凄い。シズクじゃないけど、俺も仲間にしたくなってきた」


「仲間? それは、もしかして我を仲間にしようと思っている……そういう意味であるか?」


「そうだよ」と両手を広げて言うジェル。あっけらかんと表現がよく似合う。


「くっくっく……」と嗤う不死鳥。こう言葉を続ける。


「戯言を言うな。貴様らは、我の同胞と、我の王国を虐殺した。仲間に――――傘下に入ると思ってか?」


「思ってるさ」


「なに? 正気か、貴様?」


「君たち魔物は種族の絆よりも重視しているものがある」


「――――いいだろ。それを答えてみろ」


「そいつは単純だ。俺とお前――――どっちが強いかだ」


「――――」と不死鳥は、黙った。 肯定を意味する沈黙。


 ならばと、ジェルは言葉を続ける。


「俺は武器を手放した。それは、なぜだかわかるか?」


「解せぬ。素手で、我に勝つつもり――――しかし、それがどうして? なんのためなのだ?」


「簡単な理屈だよ。俺たち人間の世界じゃ、武器を使って倒した相手とは友達にはなれないって言葉がある。卑怯だからね……残るのさ、遺恨ってやつがね」


「愚かな。ここまでの戦いで我は纏う火炎を奪われ――――今は空も飛べぬ」


「でも、終わってから言わないでしょ? 卑怯だぞなんて言葉を」


「それも道理か。では――――」


「うん、やろうよ。ここからは――――真向勝負だ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る