第57話 不死鳥フェニックス攻略戦 終わり

 「拳で――――」

 

 かつてのジェルには有していなかったはずの拳闘術ボクシング


 素早く接近戦インファイトに持ち込み、不死鳥のボディを叩いた。


「打ち抜かせてもらう」


 それは不死鳥の巨体がよろめくほどの威力が込められた鉄拳。


 ドスッ ドスッと重い打撃音。


「おのれ、人間の小さな拳ごときで」と不死鳥は一歩、一歩と後退していく。


 そう人間は小さい。そして相手は巨体だ。


 人間に比べれば、遥かに不死鳥の肉体はデカい。


 人間と生物としての強さは比較するまでもない。


 ジェルの技に恐怖が感じられないのは、彼が手にした妖刀の影響なのだろうか?


 ────否、それだけではあるまい。 


 妖刀による狂気によって恐怖を感じなくなっただけではない。


 一片の負目のなさ。


 彼に灯った光。それの名前は自信。


 自信は勇気と成り、勇気は彼の肉体に影響を与える。


 不死鳥も反撃を開始する。 翼と繋がる前足を横薙ぎに振るう。


 ジェルは、向かってくるフックをギリギリで避ける。


「見える……錯覚でもない。視力が、動体視力が上がっている」


 左のカウンターを叩き込む。


 一瞬の攻防のため、反射的に――――叩き込んだ直後に拳には感触が残る。


 これまでジェルが経験した激戦。 


 死線を超えた戦いで、ジェルの肉体も――――精神と同等に爆発的な成長を遂げていたのだ。   


 生死の間際で得た集中力は――――いや、止めよう。


 万の言葉を使ったところで、


 わかる者にはわかる。わからない者には一生かけてもわからない。


 理解できるやつだけ理解できればいい。


 要するに――――実戦と鍛錬を重ねて、滅茶苦茶強くなったって事だ。


 不死鳥は爪を下から上に振り上げるアッパーカット。だが、ジェルは攻撃を読み、すでに回避の準備を終わらせていた。


(この攻撃は大振り過ぎる。避けての反撃は強烈に――――)


 だが、そこで予想外の事が起きた。


 避けたはずの爪から僅かに遅れて不死鳥の翼も跳ね上げられる。


 それにより生まれる空気の渦。


「くっ、衝撃波!? 体が浮き上がって、動きが止まるッ!」


 襲われた浮遊感。 まるで徒手空拳の投げ技を受けたように体のバランスが崩れるジェル。 それを見逃す相手ではない。


(大きくバランスを崩して、その体は既に死に体。 食らえ、我が一撃を!)


 不死鳥の爪。それは抜き身の刃による刺突に等しい。


 薄いジェルの腹筋を突き抜ける事など容易い。 だが――――


「そうは――――させるか!」


 ジェルは、浮き上がりながらも地面に辛うじて足を残していた。


「つま先だけでも、地面に足がついていれば強烈な打撃が打てる!」


 彼は、力の流れに逆らわなかった。むしろ、自ら縦回転していく体を加速させ――――


 下から上に――――拳を叩き込んだアッパーカット


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・・


 それから、どのくらい経過したのだろうか?


 殴り合いに殴り合いを重ねる。 


 拳に拳を重ね――――

 

 痛みに痛みを重ねる。


 不意にジェルの頭部が大きく後ろに仰け反った。


 不死鳥の爪が直撃したのだ。しかし――――


(なんという、なんという男だ。意思が、鍛錬が、ここまで弱き肉体を強靭に変えるのか?)


 ジェルの頭部は砕けた様子も、切り裂かれた様子もなかった。


 ただ、強烈な打撃を浴びたように顔を顰めるのみ。


(何度だ? 今まで何度、爪を頭部に、腹部に受けた? それでいて腸どころか、腹部に傷すらついておらぬ。こやつが、こやつこそが――――)


 止まらない激しい打ち合い。


 離れた位置で見守るシズクは 


「やっちまえジェル……魔物を仲間にする方法は2つだけだ」と呟く。


「1つは、相手を完膚なきまでに屈服させるまでにボコボコにして傘下にすること。

 もう1つは――――


 相手が歓喜に包まれるまでボコボコにして友達になることだけだ」


     

 そして、その言葉の直後だった。決着は――――


 満身創痍となった両者。 最後に放った一撃は戦う者の想いを乗せて――――




 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・


 不死鳥フェニックスが仲間になった。 

 

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