第139話 ドロシーと古代魔道具

 教団第十三課スプリガンとアスリン・ライヤ


 5年前にジェルは、アスリンと戦った。 古代魔道具の封印と存在隠蔽を目的とした組織からの刺客。


 白い魔導士の彼女は、殺した人間を操ることのできる『生と死のナイフ』という古代魔道具を使い、ジェルを追い詰めた。


「思い出したぞ。あの時――――お前、死んだはずだろ?」


「幸いにも、貴方の仲間に助けられたのよ……あなた、忘れていたの?」


「そうだったけ? じゃ、俺は命の恩人だろ? 立ち位置を間違えてないか」


「――――笑止」とドロシーは杖を振るう。 間合いを無視した斬撃が、彼女の杖に合わせてジェルを襲う。


「ジェルさま!」とトムが助けに入ろうとするも――――


「邪魔させてもらう」


「くっ! レオ・ライオンハートが!」


 その結果、ジェルはドロシーと1対1の対決を余儀なくされた。


「さて……教団第十三課とか、お前がどうしてアスリンの後釜になったのか聞かせてもらうか?」


「あら、よくカッコつけれるわね。そんなに不様に逃げ回っていて」


「……俺が、ただ逃げ回っているだけだと思ったか?」


 ジェル、激しく動き回っていたのは、ある行動を隠すため。


 大げさにドロシーの攻撃を避ける動作に紛れて、小石を蹴り飛ばしていた。


(攻撃を無効化する古代魔道具。しかし――――完全ではない!) 


 ジェルは剣をドロシーに向ける。 再び、刺突を狙う。


「また、同じ攻撃。無駄よ……私の古代魔道具に死角はない!」


「それは、どうかな?」


 ジェルは、動きに緩急をつける。 


 一瞬で間合いを縮める加速力。そして、刺突――――その直前、突きの速度を緩やかに落とした。


「お前の魔道具は、高速で接近してくる攻撃に反応している。 なら、高速でなければ良い」


「あなた、頭が悪くなったの? 遅い攻撃なんで後衛の私だって避けるわ」


「本当にそうかな?」


「え?」とドロシーは驚きを口にした。 確実に避けれたはず、そのジェルの攻撃が胸に触れている。


「なにを――――したの?」


「剣を舐め過ぎだ。 どんなに遅くても、無駄な動作を極限にまで削った技は――――見えていても避けれるものじゃない」


 ドロシーの胸に剣を突き刺した。だが――――


「手ごたえが……いや、心臓がない?」


「いろいろやったのよ」


「なに!?」


「私も強くなるために、いろいろやったわ。今じゃ、すっかり――――怪物よ!」


 ドロシーは杖を振るう。その一撃は老練者の剣士を連想させるほど。


 避けるジェル。 しかし、ドロシーは連撃で追う。


「肉体強化……いや、それで剣の技が使えるはずもない」


「なるほど」とジェルは戦いながらも納得する。 


 古代魔道具を使用した戦闘スタイル。明らかに自分の使い方とは違う。


教団第十三課スプリガンは古代魔道具を封印するために、古代魔道具を使う矛盾した戦闘集団。そこで戦闘を学んだか)


 剣士の技を身に付けたドロシーにどう戦うか? ジェルは少しだけ悩んだ。 


   

 

  

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