第20話 シオンの悪夢
シオンは眼を開く。
(体が重い。疲労からくる倦怠感……それもある。けど……毒? あるいは薬を打たれている?)
そこまでだ。彼女はそれ以上を考えることができなかった。
頭にモヤがかかったみたいに思考がまとまらない。
(場所はわからない。どうやら室内……薄暗い。椅子に縛られている?)
「目を覚ましましたか?」と男がいつの間にか対面に立っていた。
「お前……そうか、私は負けたのかジェル?」
ジェルが椅子に座る。 2人の間に頑丈そうな机があった。
(……? この机、さっきまであったか?)
シオンは奇妙な違和感に囚われる。 しかし、違和感の正体まで掴めずにいた。
だから、シオンは様子を窺う。
「それで?」
「……」とジェルは答えない。
「私を捕縛してどうするつもりだ? 復讐でもしたいのか?」
「復讐」とジェルはシオンの言葉を繰り返した。 まるで言葉にする事で自分の考えを確かめるように見えた。
「復讐したいわけじゃない。ただ……そうだな。謝罪の言葉がほしい」
「ふん! 笑わせるな」とシオンは挑発した。
「人を捕縛しておいて謝罪だと? お前こそ、こんな事をして許され――――え?」
奇妙な音がした。 料理の時に聞こえる包丁の音。
シオンにはそう聞こえたのだが……
「ようやく気付きましたか?」
「なんだ……これ? これはなんだ!? 答えろ、ジェル・クロウ!!!」
ジェルに促され、気づいた。
目前の机に奇妙な物があった。
それは指輪?
机を一体化した金属の指輪が10本……いつの間にか自分の指にハメられ固定化されていた。
そして、その内の1つ……自分の指が刃物によって切断され――――
「うおぉ! き、貴様……ジェル・クロリ! わ、私の指に何を――――」
「五月蠅い」とジェルは無慈悲に手にした金属。 彫刻で使用する
「や、止めろッ! 二本、私の指が……い、痛みがない? これは夢?」
「あぁ、痛くないだろ? 麻酔……指の神経を麻痺する薬を使っている。これで謝罪をしてくれるか?」
「こ、こんな事をしてどうなるか! わかっているのだろな!」
「わかってる。麻酔を使ったのは、痛みに逃げずに貴方の罪を意識してもらうためです」
「ふ、ふざけるなっ! よくも、よくもおぉぅぅぅ!」
「――――次は左手から切る指を決めます」
ジェルは無表情で鑿を振り落とした。
それから、こう続けたのだ。
「可哀想に……もう二度と剣が振るえなくなりましたね」
まだ、シオンの悪夢は終わらない。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・
「それで今、どんな夢を見させてるの?」とシズク。
「さぁ? 流石に『妖刀ムラマサ』の精神汚染で見せる悪夢まで操作できないからね」
そう答えるのはジェルだった。
『妖刀 ムラマサ』
刃を見た者、刃に斬られた者の精神を錯乱に追い込む妖刀だ。
意識がない者にも悪夢という形で効果が発動する。
「ただ……」とジェルは続ける。
「もしも、俺に対する罪悪感が多ければ多いほど、その悪夢は罪の意識が具現化したものになるだろうなぁ」
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