第19話 ジェル対シオン 決着

 「なん……だと!?」


 シオンは動けなかった。 


 振るった技は奥義。


 鍛錬に鍛錬を重ね、身に付けたのは距離を無視した斬撃。


 『斬撃翔』


 自国の剣聖を師事して、学び修めた技だったはず。しかし、ジェルが放った技は――――


『虚空斬撃翔』


(我が師である剣聖が使った『斬撃翔』の上位互換…… 技終わりの硬直時間を狙われて――――いや、わざと技を当てなかった?)


 混乱する。 


(あのジェルが? 私が憧れる剣聖を同じ技を使う? あり得ぬ!)


 シオンは瞬時に間合いを詰める。


 甲高くも鈍い金属音。 キンキンキンと鳴り響く。


 耳に残る嫌な音だ。  体に触れれば、いともたやすく命を摘み取る音。


 しかし、両者は命どころか体に刃を触れさせない。


 力量が拮抗している……わけではない。


「馬鹿な。私が遊ばれている……だと!?」


「……遊んでいるつもりはないよ」


「ここまで力量を見せておいて! 殺せ! 私を殺せ……殺す、殺す、殺す! その刀を渡せ!」


 異変。 明らかにシオンの様子が変わった。


 狂気を纏い、技も乱雑。しかし、膨大なる殺意が、彼女を弱体化させるではなく、むしろ強化させている。


「――――? あぁ、そうか」とジェルは納得した。


 彼女の攻撃を受ける自分の武器。 『妖刀 ムラマサ』が効果を発揮させているのだ。

 

 その効果とは――――


『刃を見た者を魅惑し、精神の錯乱を誘発させる』


「寄こせ! 寄こせ! その刀を寄こせ! 寄こさぬならば死ねッ!」


 シオンの表情は、人間を思えぬほど狂気に染まっている。


 歯をむき出しに、目も血走り、髪を乱れ振るわせる。


 手負いのオーガでも、ここまで高い攻撃性を見せるだろうか?


 しかし、「――――」とジェルは無言でシオンの猛攻をいなす。


「もしも……」


「?」


「もしも、貴方が狂気なんてものに心が揺さぶられなかったら、俺は負けていただろうな」


 それはジェルの本心だった。 剣聖に成ったとはいえ、付け焼刃の技。


(貴方が普段通りに冷静だったら、短期決戦を選ばなかった。体力と集中力の削り合い……何より、振るい続けた剣から生み出される膂力は俺が敵うはずもなく――――)

  

 しかし、その想い。 狂気に染まったシオンに届く事もなかった。


 雑味を帯びた醜悪な剣を避けたジェル。 カウンターに選んだのは――――


『天魔六乱舞』


 高速の6連撃がシオンの体に叩き込まれた。


 その衝撃。 小柄なシオンの体が浮き上がるほど。


「流石……それでも立っているのか?」


 峰打ちとは言え、刀による打撃を高速で叩きつけた。


 もはや、意識はない……はず。 


 それでも倒れず、失神してもなお、剣を構え続けるシオン。


 ジェルは称賛せずにはいられなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る