第18話 ジェル対シオン
「何者だ?」とシオンは足を止めた。
振り返りはしない。
だが、振り返ると同時に攻撃へ転じられるよう剣へ手を伸ばしている。
「俺だ。ジェル・クロウだ」
「────馬鹿な。奴は死んだ」
「これでも信じてくれないか?」
ジェルは、顔が見えるよう影から月灯りがする方向へ歩く。
それに合わせるようにシオンはゆっくりと振り返り、ジェルの顔を覗き込む。
「驚いた。生きていたのか」
「なんとか生きて帰れたよ」
「そうか、それで……なんの用件だ? 我々の行為をギルドへ訴え出るつもりか?」
「訴えはしないさ」とジェルは答えた。
依頼中、迷宮内での緊急時に限り
他者の命よりも自身の命を優先させた者を罰する事はない
冒険者ギルドに古代から伝わる原則の1つ
『カルネアデスの板』
当然、ジェルもシオンも知っている。
「訴えても君たちは罪に問われる事はない────」
それを言い終えることがジェルにはできなかった。
シオンは抜刀。刃を振り下ろす。
しかし、それは脅しが目的だった。
(我等を弾圧することは見当違い。分かっていながら夜道に姿を見せる……敵対行動と判断されても文句は言えまい!)
僅かに衣服を斬る紙一重の斬撃。
……そのはずだった。
「なにッ!?」とシオンは驚きを口にする。
ジェルは避けた。それも極小の動きで
その動き……もしも、シオンが殺すつもりだったとしても、ジェルに届かなかっただろう。
「その技量、隠していたのか? いや、まさか……」
「身に付けたのさ。あの迷宮で……」
「それこそ戯れ言を。一朝一夕で身に付くものではない。────ならばこそ、なぜ?」
シオンの内側で憎悪と殺意が膨れた。
これは彼女が背負う業である。
剣において自分を上回る技を見せれれば斬りかからずにはいられない。
そういう風に育てられ、そう風に生き抜いてきた。ゆえに────
刀を振るう。
本気の彼女は殺意を隠さぬ。 2撃目は高速の抜刀術。
ジェルの胴を狙う。しかし、弾かれる。
「まぐれはないと思っていたが、これほどか。ならば、次は――――」
「待ってくれ。俺はシオンと戦うつもりはない」
「もう止まらないよ。そんな技を見せては、私は止まらない」
敵意はないと、距離を取り始めるジェル。
「ならば――――」
彼女は切り札を切る。ジェルを除いた冒険者仲間たちにだって見せてない奥義だ。
『斬撃翔』
離れた場所の相手を切り裂く。 斬撃を飛ばす奥義だった。
しかし――――
迫り来る斬撃に対して、ジェルも剣を振るう。その技は――――
『虚空斬撃翔』
2つの斬撃が宙にぶつかり合い相殺――――否。
打ち勝ったジェルの斬撃がシオンに向かって飛んだ。
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