第66話 幽霊屋敷を調査しよう④

「さて……さっき、吹っ飛ばした幽霊少女がボスみたいな感じだったけど……どうする、ジェル?」


「ん~ 少しわからない事があるんだよね」


「へぇ? それは、なんだ?」


「人の気配がない」


「それは当たり前だろ? 幽霊屋敷なんだから」


「いや、そもそも依頼は、行方不明になっている借金取りの捜索。それも7人だ。でも……」


「人間がいる痕跡がない?」


「そうだ」とジェルは頷く。


 屋敷の床には埃が積み重ねられている。


 しかし、足跡はもちろん、何かを引きづった跡もない。


 それに、通路の多くには蜘蛛の巣がある。 屋敷内に何かの生物――――人間を含めて、実態を有する生物がいるならば、蜘蛛の巣を破壊せずに移動する事は困難だろう。


「もしかして、ギルドの受付嬢に騙されたんじゃねぇのか?」


 少し悪態を込められたシズクの呟き。ジェルは「……」と無言で返した。


 確かに、冒険者の有益な情報だからといって、勤務の範囲外で依頼を持ってくるだろうか?


 それに不思議な事があった。


 あの時の事を詳細に思い出そうとすると――――受付嬢の顔が思い出せないのだ。


(アレは本当に俺たちの知っている受付嬢だったのだろうか? どうして顔が思い出せない――――いや、そもそもあの時の受付嬢は、首の上に頭が――――)


「おい、ジェル!」


「え? なに?」


「いや、お前……顔が真っ青だぜ? 悪い物に憑かれたじゃないか?」


「そんな事は……わからない」


「うん、それじゃ選択肢は2つだ」


「2つ?」


「あぁ、このまま安全を優先して帰宅するか――――この幽霊屋敷を破壊するか」


「破壊って……」


「臭いがするんだ。これは湿気を含んだ臭い……水がある。それも大量に―――」


 シズクは、先行して歩いて行く。彼女の目の前には壁。


 何も特別な仕掛けがあるようにも見えない普通の壁だ。


 それをシズクは手にした武器――――大剣を叩きつけるように振るった。


 破壊音。


 崩れていく壁。その奥には――――


「隠し階段。ここから1階に? いや、もっと下に?」


「さぁね? そこまではわかんねぇよ。――――さぁ? どうする?」


「進むか? 戻るか? もちろん、例え罠でも行くさ」


「よし、よく言った」


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・・


 回る。 回る。 回る螺旋階段。


 徐々に壁から聞こえる異音が大きくなっていく。


 それは水の音。 しかし、不可解。


 なんのために? 屋敷の下る階段を隠して、横には大量の水を流している。


 考えれるのは――――


「シズク、少し止まってくれ。地図を見る」


 ジェルが取り出した地図は、屋敷の見取り図ではない。


 この周辺の土地が記載された普通の地図だ。


「近くに川か池が……あるな。ここから水を引いている」


「へぇ、そいつはつまり?」


「水の力を動力に――――おそらく水車で、何かを作ってる」


「なるほど」とシズクが地図を取り出す。ジェルとは違い、今度は屋敷の見取り図。


 それに、なにやら書きこんでいく。


「コイツは良くないぜ。水は霊を呼び寄せる。それを螺旋状に回していく――――コイツは儀式的だ」


 シズクは、地図を完成させると、こう続けた。


「もっとも、住んでた貴族さまは悪霊を呼び寄せたり、生み出したりする目的じゃなかったかもしれねぇが……後ろめたい感情。隠しておきたい物事にアイツ等はつけ入ってくる」


「それじゃ、この先には?」


「何を作ってたは知らないが……とんでもない魔物が居座っているって事だ」   

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