第67話 幽霊屋敷を調査しよう⑤

 ソイツは何の脈略もなく出現した。


 音の正体は空気の振動。ならば、水中という空気のない世界では、どれだけ激しく動いても無音となる。


 だからだろうか?


 ――――ソイツは何の脈略もなく出現した。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・・


「シズク、何にかヤバイ! 右の壁が壊れる!」


「――――ッ!」と盾を備えるシズク。 何か――――魔物の敵襲。


 その攻撃よりも速く、破壊された壁から強烈な水圧を浴びるシズク。


 遅れて水と共に飛び出してきたのは巨大な顎。


 その魔物は――――巨大鰐アリゲーター


 水面に近づくミノタウロスやオークすら噛みつき、水中に引きづり込み仕留める凶悪性。


 それでも重装備であるシズクの防具は砕け散らない。


「ジェル! フォローを頼む!」


「応!」と手にした武器は『名刀コテツ』


 シズクを頭から齧り付こうとする巨大鰐。 


 その特徴は牙や尻尾など、過剰的な攻撃力だけではない。


 注目すべきは防御力。まさに体は頑強と言える。


 分厚い鱗に覆われた……だけではなく、さらにその下には鱗板骨。 


 要するにとんでもなく頑丈をいうわけだ。


(だから、狙うソコ。攻撃のために体が浮き上がったために無防備になっている腹!)


 ジェルが繰り出したのは、速度と体重を乗せた一撃必殺の刺突。


 果して、その手ごたえは?


「――――ッ!(た、確かに背中よりは防御力は薄いとは言え――――)」


 名刀コテツの刺突を持ってすら致命傷まで達せない。


 ターゲットをシズクに向けたまま、尻尾による攻撃をジェルに開始した。


(まるで丸太の一撃。 受けても――――防御は通じない)


 その場で飛び上がり回避。


 そして回避と同時に反撃。体重と重力を味方に、尻尾へ突き刺す。


(ダメだ。剣の技術じゃ倒し切れる気がしない。魔法の超火力――――でも、こんな狭さじゃ)


「やれ、ジェル!」とシズクの声。 2人は視線が交差する。


「うおぉぉぉぉぉぉ!」とシズクは裂帛の気合を入れる。


 巨大鰐が飛び出してきた亀裂へ、押し戻していく。


 単純な腕力勝負。体格差に打ち勝ち、巨大鰐の体を浮かして――――


「投げさせてもらうぜ! やれ、ジェル!」


 有言実行。 浮かび上がった巨大鰐。 それに対してジェルが――――


『ホワイトエッジ』


 魔法の白刃。 氷の弾丸となり、巨大鰐に打ち込まれる。


 その衝撃は、巨大鰐を出現地点――――壁の大穴まで押し戻した。


 加えて『ホワイトエッジ』は氷属性の魔法。


 破壊され、大量の水で他の箇所も決壊間近だった壁を氷で補修していった。


「や、ヤバかった」とジェル。 彼は、氷魔法によって補修した壁をペタペタと触る。


「よく確認すると周辺の壁がぶち壊れる直前だった。もしそ、ここで『ファイアボール』を選択してたら、一気に水が溢れて溺れ死もあり得たわ」


「うん、これは町に戻った方が良いかもしれないな」とシズク。


「これが本当に正規の依頼だったのかの確認も必要だ。なにより、氷魔法で直したって言っても永続的な効果じゃない。どのくらい持つ?」


「そうだな。2~3日……あの巨大鰐が同じ場所を攻撃しなければの条件付きでね」


 それを聞いたシズクは深く頷くと


「やっぱ、ここらが引き上げ時ってやつか」


 しかし――――


「させぬよ」


 そう怒気を含む声が2人を止めた。  

     

 

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