第68話 幽霊屋敷を調査しよう⑥
「させぬよ」と声はする。
確かな怒気を纏った声だった。
その正体に凡百の戦士ならば気づかなかっただろう。
1人は不遇の扱いを受けていたとは言え――――
斥候の能力だけでB級冒険者まで到達した広範囲の索敵能力の持ち主。
もう1人は、最弱の魔物ゴブリンから禁断の知識を得て――――
人間と魔物の超越者。魔族という未知の種族が持つ超感覚。
ゆえに両者は同時に見ていた。
暗闇の中、蛇のように地面を滑空する漆黒の影。
(あれが――――敵だ!)
そう判断したのは、ジェルか? シズクか?
やはり攻撃も両者同時に行われた。
『ファイアボール』
『
もはや、閉ざされた空間にも関わらず、大量出力の魔法攻撃。
むしろ――――
狭き通路よ。崩れ落ちるならば崩れよ!
そう願わんばかりの破壊攻撃。
にもかかわらず――――敵は健在であった。
(――――っ! 無傷? 俺とシズクの魔力を消滅させた……だと? どうやって?)
驚愕を示すジェル。その前に影が人の形へ変化していく。
「ここは我が屋敷。呪われた堅城とも言える我が領土、我が世界……
汝、人成り。すなわち神の子よ。反逆をなるべきは我が漆黒の意思――――」
その圧力は、間違う事のない――――
「おい、ジェル。なんかアイツ、難しい事をブツブツ呟いてるぞ? これはアレか? 思春期特有の人と違う少数派こそがカッコいいって……」
「貴様っ! そうやって貴様ら人類は、理解できない事を理解できる枠の中に閉じ込めて否定しようとする! だから、我は――――」
一瞬でシズクへと間合いを詰める。人の形状でありながら、刃物のような指で貫こうと――――
だが、それはシズクの挑発。 罠だった。
「かかった! どうせお前も悪霊とか、そんな部類なんだろ! 食らえよ?」
『
破邪の光が敵対存在を包み込み、浄化の炎が襲い掛かってくる。
それでも敵は――――止まらない。
「燃えぬ! 神の力で我が野望! 執着は止まりせぬ!」
鋭い爪。
それから繰り出される刺突は、重装備の盾も鎧も貫き通り、シズクの顔面を捉えた。
――――そのはずだった。
「むっ……手ごたえが消えた?」
「これは拳帝ガチャの力『幻体術』だ。素手の攻防に持ち込むつもりなら残念だ。誰も私に触れられない」
「幻? 幻影? 馬鹿なっ! 実像がある幻なぞ!」
驚愕するのも無理はない。
刺突をはなった腕。その腕をシズクの幻が掴み、動きを封じている。
そして、背後から現れたシズクの本体は――――
拳による乱撃を開始した。
瞬時に数十発の打撃。
巨大なゴーレムだって拳足で砕き、削げ落とすほどの威力だろう。
「これで、トドメだ! 吹き飛べ!」
強烈な体当たり。
受けた相手は、なす術もなく宙を舞い、壁に叩きつけられた。
この攻撃を受けて立ち上がれる生物がいるだろうか? しかし――――
「――――あいにく、素手の攻防なら我にも自信があってな」
ソイツは立ち上がった。なにより、驚くべきは――――
「へぇ、ダメージがないのか?」とシズク。
「いいや? ちょうど今、回復し終わった所だ。そう言えば――――自己紹介をしていなかったかな?」
ソイツは優雅に名乗った。
「我は、聖ドラグル・ブラム・ジョージ。この領土の絶対支配者でありノーライフキング……すなわち吸血鬼である」
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