第69話 幽霊屋敷を調査しよう⑦
聖ドラグル・ブラム・ジョージ
その名前にジェルは――――
(たしか、ここを支配していた貴族……ただし、150年以上前の英雄じゃないか)
ジェルは、頭の片隅に残っていた記憶を引っ張り出した。
(かつての貴族が神に反逆して不死者になった……なるほど、よくある話だ)
地位と名誉を武力で得た英雄が求める先――――強欲は寿命すら否定して、全盛期の強さに永遠を求める。
例え――――外法、邪法と使用したとしても……
(――――いや、だとしたら解せない。ならば、不死者の弱点である破邪系の魔法が効かない?)
確かに、聖ドラグル・ブラム・ジョージ――――聖ドラグルがシズクへと襲い掛かった時にカウンターでシズクが放った『
彼が名乗った通りに
神の摂理に反逆した者は、神の象徴である十字架に自己崩壊を招く。
吸血鬼が十字架を見ただけで焼け死ぬ理屈である。
ジェルが聖ドラクルに考察するのは、ここまでだった。
「我が威光に恐れるとは、知恵深き少年か? だが、我に喝采を浴びせよ。さすれば――――汝も我の命に溶け込ませてくれよう」
瞬間移動? そう間違うほどの一瞬で聖ドラクルはジェルの背後を取った。
(影に変化して移動したのか? だから、予備動作どころか移動する姿を見失った!)
聖ドラクルの攻撃――――いや、それは攻撃というべきではない。
捕食だ。
彼はジェルを食物と認識して、食べようと――――大きく口を開いた。
吸血鬼の噛みつき。 ならば、それは一撃必殺。
生ある者を死者の従者に変える文字通りの一撃必殺だ。
ぎりぎり――――ジェルの頭部よりも上で空振りした牙と牙が交差する音が聞こえる。
その場で素早く身を屈めて回避したのだ。 加えて――――ジャンプ。
大きくしゃがみ込んだ体勢から、大きく体を伸ばして宙返り。
背後にいる聖ドラクルに向けて蹴りを放った。
所謂――――
オーバーヘッドキック。
曲芸を連想させる蹴り技に不意を突かれた吸血鬼は思わず、数歩だけ後退する。
その隙をジェルの相棒は見逃さない。 シズクは隙だらけになった聖ドラクルに向かって――――
「あの世に帰れ! 噛みつき魔が!」
大剣による袈裟斬り。 致命傷――――相手が、ただの魔物ならの話。
「無粋な小娘が! 貴様には優雅さが足りぬ!」
斬られた場所に白い煙が立ち昇り、回復が始める。
吸血鬼ならそうだろう。 不死身の回復能力を持っているに決まっている。
「我の領域まで達すれば、戦いはゆっくりと――――忙しなく動く事すらなくなるのだよ」
確かに、その凄きは洗礼された舞いのように優雅であり―――――だが、一撃必殺の威力を秘めていた。
吸血鬼の手刀。
それは重装備であるシズクの防具すら貫き得るのは、わかっている。
しかし――――
「――――なに? 何が起きた?」
驚きを漏らすのは、聖ドラクルだった。 彼は混乱していた。
確かに捉えたと思ったシズクの肉体。 しかし、その直後には彼女の大剣が、胴に叩き込まれていた。
彼の胴は宙にある。 切断され、離れ離れになった下半身は、既に地面に転がり――――
重力の存在を思い出したかのように、ゆっくりと彼の上半身は地面に落下していった。
その様子を見ながら、シズクは説明するように大剣を見せつけた。
「これは魔族ガチャの『因果律の大剣』 相手より遅れて振るっても、必ず先に攻撃が届くカウンター特化の魔剣さ」
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