第70話 幽霊屋敷を調査しよう⑧
聖ドラクルは致命傷を負う。
肉体を2つに分けられて戦える生物はいない。
だが――――聖ドラクルは不死王だった。
「おぉ、これは愉快なり。戦いに生きた150年……ここまで追い込まれたことなぞなかった」
その直後、彼の肉体は大量の蝙蝠に代わり――――再び、集結して人の形になる。
致命傷と思われた傷。今は見当たらない。
「おいおい、不死身の吸血鬼さまって言っても限度があるだろ。なんだ……お前の秘密は?」
「――――ない。不死身たる我に人の理屈など存在し得ない。我は超越者。我は不死者。やがて神の領域まで登り――――」
「いいや」とジェルが聖ドラクルの言葉を遮る。
「その馬鹿げた不死身性に秘密はある。……いや、既に解いている」
「ほう……」と興味深く聖ドラクルはジェルを睨みつける。
「この建物……地下水路は螺旋状に作られている。まるで負の魔力を無限に回転させてるような作りだ。内へ内へと送られていく魔力が持ち主であるお前に供給され、常識では考えられない不死身性を付加させて――――」
「面白い考察だ。だが、それが正しいとして、我を倒す手段を見出せるか?」
「そんなものは――――不要だ」
「なに?」
「俺たちの目的は、アンタの打倒じゃない。行方不明者の捜索なのさ」
「……つまらぬ。つまらぬ事を言ってくれるな。冒険者たる者、我を――――」
「もうわかっているのさ。ここは元々、お前に魔力を供給させるためだけの建物じゃない」
「――――っ!」
「おかしいよな? 不死身性の魔力を得るための建物なら――――魔力的が儀式を目的とした建物なら水車なんて必要ないもんな! この巨大な仕掛け……数々の水車を使って何を作っていたのか!」
ジェルは手をかざす。 向けるのは壁。その奥には水が通っているはず――――
『ファイアボール』
巨大な攻撃魔法は壁に穴を開けた。 その先には――――
「貴族が隠れて作る物。すぐに思いつく物は――――贋金、武器、密造した酒。あるいは――――ご禁制の薬だ」
壁の向こうには眩い光。
地下で植物を育てるために必要な膨大な光源。
そこには人間がいた。 人を狂乱へ誘う薬の原料となる植物を育てるための人。
まるで精気のない顔はゾンビのように見える。 だが、きっと彼らが――――
「7人だ。行方不明になった7人が全員いるみたいだ」
「何を言っている? お前は?」と聖ドラクル。
「だから、どうした? この屋敷の秘密を、我の秘密を知って――――生きて帰れると思うてか?」
「もう良い」
「なに?」
「もう良いって言ったのさ。依頼は達成した――――なんの憂いも残さずお前を倒せせる」
「何を意味のわからない――――ならば、死ぬが良い!」
「お前を倒すための方法は、最初からあったのさ。やれ――――シズク!」
「あぁ!」とシズク――――彼女が手を背後に回す。取り出したのは、腰につけていたランタンだった。
そのランタンを開き、灯りを照らすための火が外気に触れる。 その途端、火に変化が起きる。
「なんだ、なんだ! そのランタンは、なんだ、その火は!」
「わかるか、吸血鬼? 不死身を殺すには――――いや、殺せないにしても……不死身は不死身を持って倒させてもらう」
ランタンから飛びだした火は勢いが増していき、まるで生物のように――――いや、実際に生物だった。
その炎の生物にジェルは――――
「行け……不死鳥フェニックス!」
そう命じた。
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