第114話 VSアスリン・ライヤ 決着

 その日、ルールが変わった。


 世界最高峰の冒険者集団 鋼龍騎士団。 その団長が気配すら感知できずに背後を取られた。 ――――それも2名によって。


 それは即ち、世界で秘匿されていた古代魔道具が冒険者たちに認識された瞬間だった。


 しかし、今は―――――


「その手を離しなさい、レオ! 今なら、ここからなんとでも――――」


「アスリン……俺は、仲間たちをどうした? そう聞いているのだぞ」


「――――殺されましたよ。あのジェル・クロウによって」


「……そうか」とレオは視線をジェルに向けた。


 その隙をアスリンは見逃さなかった。 


 レオに捕まれていた手には『生と死のナイフ』が握られた。 


 しかし、手品のようにナイフは反対側に――――掴まれていない手に移っていた。


(この黄金のアスリンを甘くみましたね。邪魔をした報いを受けなさい)


 彼女はナイフを走らせた。 しかし、そのナイフはレオに届く事はなかった。


 異音。 何かが壊れる音――――それは彼女の腕だった。


 捻じられ、真っすぐに伸ばされた腕――――その肘を狙ってレオが手刀を振り落としたのだ。


 激痛。 アスリンはナイフを地面に落とした。


「あ、あなた……私を、私たちを! 教団第十三課『守護者の妖精スプリガン』は絶対に許さない。あなただけじゃない。ここにいる全員を私たちは―――――」


「もういい……眠れよ」とレオ。 どういう技術だろうか?


 彼女の首に手を添えるだけで、アスリンを失神させてみせた。


 だが、誰もその場を動けなかった。 


 レオが発する圧力? ――――とにかく、彼の感情から発せられる圧力。


 上位冒険者を含めて、誰も動けなくなっていた。


 レオは最後にジェルに視線を合わせた。


「ジェル……次が最後だ。俺はお前を殺す。だから、お前を殺せ」 


 それだけだ。 それだけを言い残すと、黒衣を身に纏う。


 気配を消す古代魔道具……その場に残っているアスリンの物も拾うとレオは姿を消した。


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・


 それから1週間が経過した。


 その間、北国迷宮は立ち入り禁止になっていた。


 謎の勢力 教団第十三課『守護者の妖精スプリガン


 彼等が収集を目的としている『古代魔道具』


 捕えられたアスリン・ライヤは憲兵たちの取り調べについて無言を貫いている。


 しかし、古代魔道具とそれを使用するアスリンの強さを上位冒険者たちは見ていた。


 彼らは、『古代魔道具』の存在を語り、その収集に乗り出している。


 世界は動き出している。 


 しかし、ジェルたちが立ち入り禁止になっている『北国迷宮』の付近に滞在している。

 

 その理由は、この迷宮に『古代魔道具』が存在しているのがジェルたちにはわかっているから……


 それともう1つ……


「明日、おそくても明後日……北国迷宮の探索を終了させ、この拠点から撤収したいと思っています」


 ジェルは、管理人のトムに伝えた。


「そうかい……あんな事件があって、自由に迷宮に行けなくなっちまったからな。残念だが、また機会があったら来なさい」


「それで、1つ訊ねたい事があるのですが……」


「ほう……それは、何かね?」


「あなた、本当はドワーフじゃないですよね? それとあの日、俺たちの邪魔をした理由はなんですか?」 

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