第113話  VSアスリン・ライヤ⑥

 地面を転がるように避けたジェル。 


 襲って来た女魔法使いは追撃せずに集団に紛れ込んだ。


 困惑するのはジェルだけではなく、それを見ていた上位冒険者たちも同じだった。


「一体、何が起きているんだ? さっきの話を聞くと人を操る敵がいると聞こえて来たのだが?」


 上位冒険者たちの中でトップの名声をもつ冒険者だった。確か名前は――――鋼龍騎士団


 冒険者なのに騎士団を名乗っている変わり者集団。 だが、実力は確かな冒険者たちだ。 ジェルに話しかけて来た相手は、鋼龍騎士団で団長と言われる人物。つまりは頭目の男だ。


「はい、ナイフを持った敵がいます。それで刺すと相手を操れると……」


「刺した相手を操れる……いや、まさか、それは……」とジェルの説明に団長は動揺。


 その動揺の理由を察したジェルはハッキリと伝えた。


「はい、吸血鬼やゾンビと同じです。ナイフで刺された者は操り人形となると同時に死人になります」


「――――っ」と団長は鋭い視線で周囲を見渡し、仲間たちに小声で支持を出す。 


「仲間たちで固まれ、何か刺されている者がいないか注意深く探れ」


 仲間の安全だけを警戒。


 この惨劇の原因であるジェルには、それを攻めるわけにはいかない。


「相手は、奇襲を狙っています。 できるなら後衛を守るように前衛で囲むように守ってください」


「……そうか。奇襲なら背中から狙う。前衛の分厚い鎧は貫けないから、簡単に操れないということか?」


「はい、ご武運を」とジェルは隠れているアスリンを探すために駆けだそうとした。


 しかし、視界の端に黒い影が見えた。 だが、それはアスリンではなかった。


 ……アスリンではなかったが、彼女の居場所を知らせるには十分だ。


 彼女アスリンは――――


(待っていましたよ。このタイミングを――――手駒としては最高の人材。鋼龍騎士団の団長を操れば、国を相手取ってたとしても勝てますよ)


 団長を守る分厚い鎧。 それを後衛で非力であるはずのアスリンが―――――


 およそ、接近戦が可能とは見えない彼女が団長の鎧のみを剣で切断して見せた。


 接近戦闘の技術を持たない者でも、武器や防具を破壊できる古代魔道具……


 彼女の手には『名刀コテツ』が握られていた。


 『名刀コテツ』によって破壊された団長の鎧。無防備になった団長の体に『生と死のナイフ』を突き立てるために前に――――


「貰いましたよ。鋼龍騎士団の戦力を私に――――」


 だが、できなかった。 黒い影のその手を――――アスリンの手を掴んだからだ。


「誰……それは古代魔道具? 私と全く同じ気配を遮断する物と言う事は――――」


「あぁ、俺だぜ? 同じ気配を消す魔道具を使って潜んでいた。なんとなく、アンタはそうすると思っていたからな」


 黒い影は気配を消す布をアスリンから剥ぎ取り、自分のも取った。その正体は――――


「黄金のアスリン……俺が気を失っている間、俺の仲間たちをどうした?」


 そう言う人物の正体は――――レオ。


 レオ・ライオンハートだった。

 



 


 

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