第115話 ドワーフ トムの正体

「あの日……なんのことじゃ?」とドワーフのトムは訊ねる。


「最初の日ですよ。俺たちが雪国迷宮に入った初日……あなたは、俺たちの後をつけていき――――あの隠し部屋。 霜将軍が封印されているのを知って、魔法を放った」


「まてまて……ワシは案内人とはいえ迷宮の内部にまで詳しいわけではない」


「……どうして言わないのですか?」


「? 何をじゃ?」


「自分は、ドワーフだから魔法が使えない……と」


「……べ、別にドワーフだからと言って魔法が使えぬ奴ばかりとは限らぬ。稀ではあるが、魔法使いになった者もいる」


 しかし、ジェルは続ける。


「俺が奇妙だと思ったのは、あなたの態度ですよ。 シズクと俺……平等に接していましたよね?」


「何を言っておる? 客は客じゃ、男と女だからと言って平等に扱うわい」


「そうですよね? でも、シズクは――――どう見てもエルフじゃありませんか?」


「――――それが、どうした? エルフとドワーフは仲が悪い、そう決まっているからか?」


「えぇ、それもあります」


「馬鹿馬鹿しい。ワシはエルフだからと言って客を区別する事はせぬ」


「えぇ、しかしエルフのお客さんからしてみたらどうでしょうか?」


「なに?」


「エルフは、気を許した相手にしか体を触れさせない。冒険者を相手に商売をしている者には常識でしょう? でも、あなたはシズクの体に触れた。 気づいていたんじゃないですか、シズクの正体がエルフではない……と?」


「……」


「念のために調べさせてもらいました。あなたの過去を」


「ふん、ワシに疑わしい過去はないわ」


「その通りです……疑わしい過去がない。それどころか、あなたが過去にどこで何をしていたのか? あなたが、管理人になる前―――――『北国迷宮』で冒険者業を始める前まで遡って調べさせてもらいました」


「そうか、それじゃ……わかってしまったのか?」


「はい、あなたがエルフに対する対応。 過去が分からない元冒険者。 魔法が使えるドワーフ……あなたの正体はシズクと同じ存在


 古代魔道具『自動販売機』の力で、ドワーフの姿に変身した魔物だったのではないですか?」


「――――」と立ちあがったトムは手をジェルに向ける。


 その直後、トムの魔力が形を変えて業火と成り、ジェルを襲う。


『ファイアボール』


 だが、ジェルは早い。 至近距離から放たれた『ファイアボール』を避ける。


 それだけだ。それだけで決着だった。なぜなら――――


「よう! まさか、お仲間だったとは、気づかなかったぜ」


 トムの背後にはシズクが立っていた。


 彼女の手には大剣。 既に構え終え、その先端をトムの後頭部に当てている。


「……」と無言だったトムだったが、ため息と共に――――


「ワシの負けじゃ。お主らが正しい……ワシの正体は、魔物じゃよ」

 

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