第94話 ジェルたちの『北国迷宮』攻略⑤

 フロスト・ジェネラルは爪を――――剣を振る。

 

 一合、二合と剣をぶつけ合うと伝わる物がある。


(おそらく、霜の将軍フロスト・ジェネラルは二足歩行の亀ではない。……このシンプルな力がブレずに持続できるのは――――機械系魔物)


 機械系魔物。 古き迷宮に出現する正体不明の魔物。


 魔力を使用しないゴーレムのような存在。


 その特徴は、異常なほどの長時間戦闘持続能力。


 何時間でも……それどころか数日間、動き続けて戦闘をした記録もある。


(疲労による弱体化は認められない。その代わり、一定の時間を経過すると死んだように動きを止めた例は幾つも残っている。それじゃ、長期戦は無謀――――)


 「――――だったら!」とジェルは作戦を決めた。


「一瞬だけ……一瞬だけでも動きを止めて超火力で短期決戦を狙わせてもらう」 


 フロスト・ジェネラルを振り上げた剣に、ジェルはおのれの剣をぶつける。


 バインド勝負。


 バインドとは何か?


 敵が持つ剣の刃を狙い、自らの刃を打ち込んだ時に噛み合い、動かなくなる現象を利用した技術である。


 ここから刺突や斬撃に変化させる攻防を行う――――本来ならばだ。


(コイツ相手に力勝負は無謀。だから――――使わせてもらうぞ!)


 ジェルの脳裏に浮かんだのは、かつて仲間の姿。 そして、裏切られ復讐を果たした相手――――シオンが使う技だった。


 クラシックマーシャルアーツ――――すなわち合気。


 バインドの力勝負からの相手の力を利用しての投げ。


「ここだぁ――――ッ! 『ファイアボール』」


 超至近距離から文字通りの超火力魔法。


 地面に倒れたフロスト・ジェネラルに叩き込む。


 破壊音と共に迷宮を大きく揺さぶる。 


 1撃では終わらない。ここで終わらせるために魔力が続く限り放ち続ける。


 叩きつける。拳で殴りつけるように魔法を叩き込んでいく。


 そして――――  


 魔力を使い果たして、拳を止める。


「――――やったか?」


 だが、まだ終わらない。  フロスト・ジェネラルの装甲板は剥がれ落ち、剣も折れている。

 

 それでも、黄色い目の光を消えていない。


 上になっているジェルを撥ね飛ばすように、腕を振るう。


 しかし、忘れてはならない。 ジェル以外にもう1人の影が動く。


 フロスト・ジェネラルの振るう腕。 それに狙いを定めて――――カウンターの魔剣が走る。


 シズクの魔剣がフロスト・ジェネラルの首へ打ち込まれ――――


「行け! シズク!」とジェル。その声に答えるように――――


「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」とシズクの叫び声。


 魔剣は振り切られ、フロスト・ジェネラルの首は刎ね飛ばされた。


「こいつはおまけだぁ! 受け取って地獄へ落ちろ――――『雷光の槍ライトニングジェベリン』」 


 剥き出しになったフロスト・ジェネラルの体に雷の魔法が通り抜けて行った。


 もうフロスト・ジェネラルは動かない。 もう動けない。


 機械の肉体に走り抜けたシズクの雷系魔法は、全てを破壊し尽くし……あとは倒れるだけだった。 

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