第125話 勇者になったレオの現在
誰が呟いた。
「――――『勇者 レオ・ライオンハート』……か。あの死にたがりが、まだ生きていたのか?」
それを皮切りに、噂と悪口が入り交じった言葉が、あちらこちらのテーブルで聞こえる。
「1人で戦場に突っ込む馬鹿だろ? 何で生きてるのさ?」
「昔は、良い冒険者だったぞ。仲間もいて……」
「戦場が頭を狂わせたのさ。仲間も狂死してなきゃ、離れて行ったんだろ?」
悪い酒が原因か? 悪質とも言える言葉であったが、当の本人は────
ゆらゆら……
ゆらゆら……
幽鬼の如く、歩いている。
彼に向けられる声が届いているのか、いないのか?
そのまま、最奥にたどり着く。対応した女性は――――
「えっと、ご注文は?」と顔を引き付かせながらも応じる。しかし、レオは小さな声で、
「――――」と聞き取れなかった。
「え?」
「依頼は? 何か良い条件の依頼はないのか……そう聞いた」
言われてから、女性はこの場所が冒険者ギルドだと言うことを思い出したようだ。
「あぁ、冒険者ギルドとしての正規の依頼ですか? 申し訳ありませんが、ここ1年くらいは、新規の依頼は入っていません」
「――――そうか。また来る」と踵を返して出口に向かうレオ……いや、不意に足を止めた。
ポケットから、取り出したのは金貨。
今の時代では価値が著しく低下した貨幣通貨……それも古く汚れた物を指で弾くと、
「え?」と金貨が飛んで行ったテーブルに座った男が声を出した。
男は冒険者を引退して、田舎に帰る計画を立てていた(最も、現在の冒険者は国の予備戦力扱いなので、自己判断で引退はできないのだが……)
そのため、机の上には地図が広げられていた。
それが、どうして世界地図なのか? きっと理由は、持ち主の本人もわからないだろう。
その地図にレオが視線を向ける。 それから――――
「やる」とだけ、口にした。
言われた本人も呆けた顔を浮かべるだけだったので、レオは「金貨だ。やる」と付け加えた。
それでも手を伸ばさない男に、
「旅に出るのだろ? 選別だ。昔、世話になったからなぁ……」
「あぁ、それじゃ遠慮なく」と財布にしまいながらも、男は「そう言えば……」と思い出した。
(確か5年前……まだ、前か? たまたま迷宮で協力し合ったこともあったな。覚えていたのか?)
改めてレオを見る。その瞳には、周りで言われているような狂気は秘められておらず、どこまで正気のソレだった。
しかし――――
「そこにいるのか、ジェル……待ってろよ」
地図の上に金貨が落ちた場所。 そこは魔族が支配したばかりの土地。
どういう理屈だろうか? レオ・ライオンハートは、ただの当てずっぽうに見える行為で、正確に『魔王ジェル』の居場所を、ジェル・クロウの居場所を当てた。
そして、ふらつきを隠せない歩き方のまま、地図の場所へ。
魔族が支配する領土に向かって歩き始めた。 ただ……
(徒歩で何日くらいかかるか?)
そんな事を考えながら――――
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