第124話 冒険者の名誉は地に落ちた

───冒険者ギルド─── 


 酒を飲み、肉を食らう。


 命を賭けた冒険からの生還。その足取りを冒険談として思いだし、興奮のまま話す。


 あるいは尊い犠牲を称える別れの儀式。


 そんな騒がしさが冒険者ギルドの特徴ではなかったのか? 

 

 今は静けさと共に、鬱屈として空気が支配していた。


 その光景に人々は声を揃えて、こう言う。


『冒険者の名誉は地に落ちた』

 

 なぜか?


 突如として開戦された魔族との戦い。


 数の少ない魔族の制圧は容易と思えた。 しかし、奴らは魔物を使役することができた。


 それも1つの部隊にドラゴンを2匹、3匹……


 魔族の命令に従うドラゴンは、1つの兵器そのもの。


「どう対処するべきか?」


 軍の作戦会議に出された大きな議題に誰かが答えた。


「やはりドラゴン退治と言えば、冒険者なのでは? この際、超法規的措置として冒険者を戦場に投下してみてはいかがでしょ?」


 冒険者ギルドは、独立機関である。


 国境を越えた大規模な依頼を可能とするため。


 また、特別な力を有するために特定な国に組しないことが、各国々に認められている。


 だから、こそ


『超法規的措置』 


 緊急時、法律を超越して、冒険者と戦場に呼び寄せた。


『獅子奮迅』  


『八面六臂』


『一騎当千』


 そんな言葉では言い表せれぬ活躍。


 各国々の王族からは「あっぱれ」の称賛を嵐のように背に浴びての戦い続けた。


 だから、大勝の後には、こんな言葉が続いた。


「いかがでしょう? このまま、魔族どもを殲滅させてみては?」 


 冒険者の軍属化。


 しかし、戦場には、こんな言葉がある。


『優秀な帥ならば、突出した武力よりも弱兵を好む』


 正確に測定できないほどの膨大な力は統率がとれない。


 混乱を呼び寄せるくらいならば弱兵で編成した軍の方が良い。


 そういう言葉の意味であり――――その言葉の通り、冒険者たちは戦場を混乱と混沌の場所に変えた。


 大敗、そして戦犯。 


 冒険者たちは、統率が可能な一部の戦力を残して、予備戦力として戦場から追い出された。


 その結果が今だ。


『冒険者の名誉は地に落ちた』


 憧れの職業『冒険者』は今も昔。 


 軍属と成り果て、いつ戦場送りになる職業を目指す若者はいない。


 加えて、物量不足。


 冒険者ギルドで酒を飲む冒険者たち。一口で飲める少量の酒。


 異常に度数が高い酒だ。 不自然なほどに……いったい、何が混ぜられているのだろうか?


 各国の奮闘――――しかしながら、世界の領土の3割は魔族に――――『魔王 ジェル』の領土になったと言われている。


 世界の物流は、正常さを失った。


「ならば森や海に戻り、猟をして暮らした方がマシだ」


 そう言って、多くの冒険者は――――冒険者である事を止めた。


 そんな憂鬱な室内――――コツコツと軍靴を連想させる音を立て、男が入って来た。


(また徴兵か?)


 冒険者たちは、怪しい酒で麻痺した脳を稼働させ、足音の主を見た。


 しかし、その男は冒険者だった。誰かが、その男の名を口にする。


「――――『勇者 レオ・ライオンハート』……か。あの死にたがりが、まだ生きていたのか?」 

 

 

 

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