第123話 ジェルの目的
ジェルは、シズクのよく似た少女に近く。
手袋を外して、彼女の頭を優しくなでた。
「すまない。どうやら、そこにいる執事が大切な話があるみたいなんだ。もう少しだけ待っててくれないか? 後で話をしよう」
彼女は、執事とジェルlの顔を交互に覗き込むと、悲しそうな表情で、
「わかりました。 お部屋でお待ちしています」
部屋から気配が遠ざかっていくのを2人は確認する。
「いかがでしたか、ジェルさま?」
「うむ……」とジェルは自身の手を観察するように見た。
すると魔力で作られた電気が彼の手から漏れた。
「俺の持っている彼女の記憶を同期させる方法――――反応を見ていて、効果は薄そうだな。例の件はどうだ?」
「アンデッドの再現実験そのものは好調といえますが……」
「やはり本命であるゴースト系の抽出及び、物質化。記憶の定着化は成果が振るわない……か?」
「……左様でございます」と執事は深々と頭を下げた。
「いや、頭を上げてくれ。元より、誰も成し遂げてない困難の道だ」
「そう言っていただければ報われます」
執事の言葉にジェルは小さく笑った。
「いかがなされましたか、ジェルさま?」
「いや、すまない。報われると言い回しが面白かっただけだ」
それからジェルは、こう続ける。
「1人の命を蘇らすために俺は、戦争すら起こしたというのに……」
「ジェルさまの目的に、ただざ人間の生命など犠牲に────」
「いや、勘違いするな」とジェルは、執事の言葉を止めた。
「もはや、人間たちに心が揺さぶられることはない。しかし────命を落とした同胞のことを思えば成果が報われるなどと、口が裂けても言えるものではない」
「────はい。失礼しました。しかし、我らは魔王さまに深い恩賞を受けた身。志半ばで命を落としても、本望と言うものでございます」
「そう言ってくれれば、ありがたい」と答えるジェル。しかし、その様子は、どことなく納得していないのがわかる。
それに気づいて、執事は話を変えた。
「ジェルさま、南下作戦参謀から連絡がありました」
「南下作戦作戦……トムのことか。何の連絡だ?」
「かねてより存在が疑われていた古代魔道具の発掘中に迷宮を発見しました」
「地図にも記載されていないアレか?
王城の地下に封印されているという……」
「はい、言うならば幻の魔道具。迷宮探索の専門チーム発足を許可いただければ、私が編成を請け負って────」
「いや、不要だ。俺が向かう」
「なんと────」と執事は絶句した。
「久々の迷宮探索……冒険者として復帰と洒落込ませて貰おうじゃないか」
そう言ってジェルは、3本の剣を腰に帯びた。
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