第110話 VSアスリン・ライヤ③

 巨大な――――巨大過ぎる火球。


『ファイアボール』


 魔法の打ち合い。 両者共に同じ魔法。しかし―――― 


 同じ魔法であっても本職である魔法使いが放つ『ファイアボール』は同質であるはずもない。


 相殺する事など叶わない。わかり切った結末。ではなぜ、ジェルはそんな行動を取ったのか?


「やっぱり押されるか。でも、時間稼ぎとしては十分すぎる」


 コツッ、コツッ……と二回。自身のベルトにかけれているランタンを指で叩く。


「この状況……貴様らの言葉でいう絶体絶命。 我に助けを願うか?」


 ジェルのランタンには不死鳥フェニックスが住んでいる。


 不死鳥は、皆が想像する通りに意識を持った炎のような肉体。


 目前に迫る炎が魔力を利用した物であれ、容易に捕食して―――――


「うん。……あっ、その前に」


「――――なんだ? 緊張感のない声で」


「アイツ等、シオンとドロシーをお前から見てどうなんだ?」


「どう? 何が、どうなんだ?」 

 

「お前もランタンから見ていたと思うけど、死者を操る魔道具を使われている。それじゃお前の力で、どうにかできないのか? そう思って……」


「うむ」と不死鳥は一瞥した。 不死鳥である彼は死を超越した存在だ。


 ならば――――


「いや、無理であろう。あれは毒の種類……既に全身に回って、生物として人間とは別の存在に書き換えられている。我が炎で焼き尽くし、浄化した所で――――」


「……わかった。もう、お前でも救える手段はないって事だな。うん、大丈夫だ。覚悟を決める時間が欲しかったんだ」


「――――ほう、かつての仲間を、かつての友を殺す覚悟を決めたか?」


「ちが……いや、そうだ。俺は今から、過去と決別をする」


「いい目をしておる。それでこそ、我を服従させた者……ならば、今から我の力を全て解放させてみせよう!」


 ―――――次の瞬間だった。


 何が起きたのか正確に判断できた者は、不死鳥本人だけだろう。


 ジェルを襲う巨大な火球――――それが、前ぶりもなく消滅した。


 捕食。 不死鳥が炎を食らったのだ。 その勢いのまま――――


「何が――――」とアスリン。 眩い光で一瞬だけ視界が効かなくなる。


 眩さから、目を閉じて、次に開いた僅かな時間。


 その刹那に等しい時間だけで――――


「これはッ! ドロシーが私のコントロールから離れて――――消滅しているのですか!?」


 彼女が使った消滅という言葉は、正しい。


 かつて、切り札としてドロシーを待機させていた場所。 


 万年は溶けぬと言われた氷のフィールドは、溶け落ち――――露わになったはずの岩肌すら溶解している。


「何を――――何をしたのですか、ジェル・クロリ? これは古代魔道具ですらない」


「もういいだろ、死霊使いネクロマンサー? お前が、どんな組織の人間で、俺や俺たちをどう思ってるのかは知らない。興味もない……けど――――


 ここでお前を倒す――――いや、殺さなければならないんだ」    

 

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