第85話 邂逅 レオ・ライオンハートとケンタウロスの少女

「この先か」と身を屈めている人物。


 人にしては、大きい。 その人物は、ケンタウロスだった。


 自然と一体化する事を神聖をする団体がある。そこでは、人と獣が混じった亜人が上位な存在として崇められていた。


 特に彼女は、代表の娘。 姫と呼ばれる後継者である。


 ケンタウロスの少女の名前は――――セツナ。


 彼女は禁忌の地に入り込んだ冒険者を追っていた。 もちろん、ジェルとシズクの事である。


 彼女が地面に触れていたのは、足跡を確認するため。 馬車を引く馬の足跡だ。


「間違いない。この先――――雪で追跡は容易になっていくはず。その時は、これで……」


 背に載せている武器を見る。


 あの後、団体を飛び出した時に、持ち出した武器だ。


 それは――――古代魔道具の1つ。 強烈な武器である事は語るまでもないだろう。


 自然との融合を目指す団体に取って、古代魔道具は相反する思想の存在。


 秘中の秘とも言える団体の切り札。 


(しかし――――そんな物を持ち出して、なぜ私はあの冒険者たちに固執するのだろうか?)


 そんな疑問が脳裏に過ぎった。


(私たちから、ご神体を奪った。それが追う理由なのは違いないだ。けれども――――もしかしたら、私は彼等が、彼らの自由さが――――)


 だが、彼女――――セツナは考えるのを止めた。


(自分だけではない。追跡者は、他にもいる? 3人――――いえ、後方に離れて1人で4人といったところ)


 亜人特有の優れた五感だろうか? セツナは、後方から近づいてくる人間の数を正確に読み取った。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・・


「こういう時に斥候がいればよかったと思う」


 それは、男が口にした冗談だ。


 なぜなら、彼等の仲間で斥候だった男――――ジェル・クロウを追っている最中なのだから。


 男の正体は、レオ・ライオンハート。


 ならば――――残りの2人は、シオンとドロシー。


 後方で距離を取っているのは新しい仲間(?) 黄金のアスリンなのだろう。


 彼等はジェルたちが、新しく古代魔道具の入手に動いた事を知り、阻止するために動いたのだ。


「しかし、俺たちは教団の……なんだっけ?」


「教団第十三課『守護者の妖精スプリガン』」


 ドロシーがため息混じりに答えた。


「そうそれだ。その第十三課に入ったつもりはないけどなぁ」


 それから、「まぁ、いいさ。ジェルに今度こそ――――」と獰猛な笑みを零す。


 しかし――――


「止まって」と彼等3人の耳元で声がした。


 彼等の耳に装着している魔道具から、後方にいるはずの彼女――――黄金のアスリンの声が制止を求めたのだ。


「待ち伏せされているわ。ジェル・クロウくんの関係者――――ではないみたいだけど」


「……邪魔されるような心当たりはない。けど、ジェルを助けるつもりだったら――――蹴散らすまでだよな?」


「――――待ちなさい。私たちは基本的に表舞台に――――隠密活動を――――魔道具の通信を――――」


「悪いな電波って言うのが乱れちまってるみたいだ。何も聞こえない。なぁ、お前等?」


「聞こえない、聞こえない」と呆れたようなドロシー。


一方のシオンは「――――」と無言。 


 無言で加速した。おそらくは敵がいる場所を察知して、切り込むために駆け出したのだ。   

  


 


 


  


 

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