第86話 邂逅 レオ・ライオンハートとケンタウロスの少女②

「追跡者は私を追っているわけではない。なら、偶然? あの冒険者たちを追ってる者同士が鉢合わせた?」


 ケンタウロスの彼女────セツナは思わず笑った。


「外の世界に飛び出して、すぐにこれ? やっぱり、これを持ち出して正解だったわね。 あの冒険者たちに使う前に古代魔道具の試し撃ちの機会だわ」


 セツナは背中から、魔道具を取り出す。


 無骨な鉄の塊。長い棒のようなソイツの正体は────


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・

 

「……来る」


 攻撃を察したのはレオだった。戦闘において、彼のカンは鋭い。


 例えば────

 ダンジョンで隠れた魔物の奇襲。


 気配を消した闇の魔法使いからの奇襲。


 仲間の中で誰よりも(斥候であったジェルよりも)速く飛び出して、重厚な鎧と盾で攻撃を対処する。


 それが、前衛戦士としてレオ・ライオンハートの役目である。

 

 飛び出す。 攻撃魔法だろうか?


 飛来してくる攻撃に盾を構えて、それを受け────あるいは弾く。


 いつものように、そのつもりだった。しかし────


「なにッ!」と彼は驚愕した。

  

 衝撃を殺しきれない。


 今まで、どれほど強力な魔法攻撃を前にして、受けきれないにしても、軌道を反らす事は可能だった。


 だが、その一撃にレオはバランスを崩し後方へ倒れた。


 追撃を受けまいと、即座に立ち上がらず、身を低くしたまま遮蔽物へ姿を隠す。


 「大丈夫?」と仲間たちの声。


 彼女たちもわきまえている。


 レオが一撃を受けた直後には、敵からの射線を切るように、遮蔽物へ移動していた。


「……見ろ。こいつを」とレオは、攻撃を受けた盾を彼女たちに見せた。


「────ッ!?」と、その異常さに彼女たちは言葉を飲み込んだ。

 

 一見するとわからないキズ。だか……


「穴……? 小さな穴が空いてるの?」


「あぁ、ドロシー。 どうやら敵の武器は俺の盾を貫通する……それも高速で小さな鉄の玉みたいな物を飛ばしてだ」


「あり得ない」と叫びそうなるドロシー。


 後衛の彼女は、誰よりも見てきた。

 

 巨大なゴーレムの拳を弾く────


 ドラゴンの牙を防ぎ、炎を受け切り――――


 時には、ミノタウロスの集団相手に力任せに押し返す。


 レオの盾は、そんな現実離れの光景を何度となく見せてくれた。


 それが、こうも簡単に――――


 混乱するドロシー。それを知ってか、知らずか、


「それで? お前は、どんな攻撃だと思っている?」


 レオは意見を聞いて来た。その一言でドロシーは冷静さを取り戻す。


(私は魔法使い。巨大な魔物相手でも勝機の一撃を放つのが私の役目――――だけじゃない。 私は、みんなの頭脳。誰よりも冷静に作戦を考えるのが役目)


「少し、考えさせて」と彼女は思考を高速で回転させた。それから、


「おそらく、魔法的要素は薄い。単純に、高速で鉄の塊を発射している武器」


「なるほど」とレオは、貫かれた盾の先。鉄の塊が残っていた。


(変形しているが、おそらくは衝撃によるもの。元は小指みたいなサイズと形状……)


「シオン、お前の視力で攻撃は見えたか?」


 シオンは女侍。剣聖を目指す彼女は、接近戦の専門家スペシャリスト


 誰よりも高速戦闘が可能な彼女の目は良い。 そんな彼女も――――


「いや、見えなかった」と首を横に振った。


「なるほど、つまりコイツは――――とんでもない距離から、とんでもない速度で鉄の塊を発射している。まともに受ければ、鉄の防具すら貫通してみせてくる。今、必要なのは、そんな相手を打倒する戦略だ」


 そんなレオを無茶な言葉に答えたのは


「――――あるわよ。そんな素敵な戦略が」 


 ドロシーだった。



 

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