第128話 迷宮の初戦

 「……」と無言で暗殺者が先行して駆け出した。


 斥候としての役割を行おうとしているようだが……


「大丈夫なのか、声が出せないだろ?」


「問題はないと思います」と執事は答えた。


 すると――――


 暗殺者が戻ってきた。 その場にしゃがみ込むと地面に地図を書き始めた。


 要所、要所に仕掛けられている罠。配置されている魔物の種類と数。


 わかりやすく共通言語で書かれている。


「仕事が早いな」と感心するジェル。 それから――――


「ここだな」と一ヶ所を指す。


「ここだけ、妙に魔物と罠の難易度が高い。ここをダンジョンと見た時、多くの冒険者は迂回する……いや、迂回できるように作られていると言うべきか」


「ご慧眼、恐れ入ります。では、ここを目的地として参りましょう」


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


 臭い。


 光が通らず、埃が溜まり……何かが住み着いてる。


 臭いの正体は、獣臭と血の臭いだ。


 ならば、いるだろう。魔物が――――そして、現れた。


「獣人……ライカンスロープか」


 そいつは熊に似ていた。しかし、全体図は人間に近い二足歩行の生物。


 そして、巨漢だ。 トロールと同じくらいの大きさ。


 ソイツが武器を――――大斧を装備していた。


「……」と暗殺者が前に出ると駆け出した。 


 獣人はカウンターを狙う。 タイミングを正確に測り、大斧を振り回す。


「うまいな」とジェルは唸った。 暗殺者は低くした体勢をさらに低く……地面を滑るようにして獣人の一撃を掻い潜った。


 そして、体当たりのような刺突。


 だが、致命傷には程遠いようだった。 


 獣人は斧をジェルたちに向かって投擲。 投擲攻撃と同時に自由になった両手で暗殺者に向かって殴りかかる。


 暗殺者は身軽だ。 通常の攻撃は、まず当たらない。


 しかし、この時は獣人に運が味方したようだ。 地面のばら撒かれている瓦礫に足を取られ、一瞬だけ暗殺者の動きが鈍る。


 獣人の拳が暗殺者に直撃。 体が吹き飛ばされていく。


 追撃。 


 暗殺者の動きは速い。 しかし、獣人の動きも暗殺者に劣らない。


 剥き出しにした牙を向き出しに暗殺者を襲う。 しかし、その直前に獣人の動きが止まった。……いや、止められたと言うべきか。


「……」と魔術師が無言で魔法を執行したのだ。


 魔力で具現化された茨が獣人を縛りあげ、動きを止めた。


 獣人は魔法に対する抵抗力が強くない。 その効果は抜群だ。


 さらに、倒れていた暗殺者が次の攻撃に移っていた。

 

 飛び上がり、獣人の頭部を取った暗殺者は、その頭部を狙ってナイフを刺した。


「……見事だ」とジェル。


「はい、お褒めに預かり、彼等も光栄でしょう」


「うむ、この迷宮探索が無事に終わったら、彼らに体を用意してやってくれ。古代魔道具の力をくれてやってもいい」


 その言葉に執事は「おぉ」と歓喜を見せた。


 ジェルから古代魔道具の使用を褒美として授かる。それは、最上位の褒美である。


 優秀な部下の成果を自分のことのように執事は喜べる男だった。


 一方、その頃……


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


迷宮の入り口。 男が立っていた。


「この圧力……いるのか? ジェル・クロウ」


 その男の名前はレオ・ライオンハート。その別名は――――


『死にたがりのレオ』


 あるいは    


『勇者』


   


 

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