第129話 現れた勇者

 迷宮を進むジェル一行。順調であったが────


 突然、通路から飛び出してきたのは小さな影。 間違いなく魔物。


「……」と追撃に出ていく暗殺者。 それに魔術師も「……」と支援するため杖を構える。


 しかし、それに執事が「まて!」と止める。


 飛び出してきた小さな魔物の正体は、ゴブリンだった。それも、普通のゴブリンではない。


「……赤い目のゴブリン。特別魔物!」


 執事は、様子をうかがうように────それでいて、どこか怯えたようにジェルを見た。


 ジェルはうつむき、表情までは見えない。


「……どうかしたのか?」


 そういう彼の声は、暗い感じが……


「ジェルさま、捕縛いたしましょうか?

実験に使えば、成果も期待できるかと」


「いや、構わん。やらぬのなら俺自らが……」


 ジェルはゴブリンに向かって手をかざす。それから────魔力を集めた。


「ファイアボール」


 巨大な火球。とてもゴブリン相手に放つには過剰な攻撃魔法。それを放った。


 轟音と余波が周囲に広がった。


「どうした? まだ、ゴブリンは他にもいるみたいだぞ」


 その声で呆けていた執事は、正気を取り戻す。


「は、仰せのままに……いけ。暗殺者、魔術師!」


 命令を下すと、素早く暗殺者と魔術師はゴブリンの排除に動いた。素早く、全ての魔物を倒す。


「お手数をおかけしました」と膝をつき、頭を下げる執事。 それに暗殺者と魔術師も並ぶ。


「……いや、構わぬさ。そんなことよりも、新手が近づいてきている」


 そのジェルの言葉に頭を上げた執事は暗殺者の方を向いた。 だが、暗殺者は無反応。


 しかし、だからといってジェルの間違いと判断することはできない。ならば────


「敵は暗殺者の気配察知を掻い潜るほどの凄腕でしょうか?」


「うむ……どうやら、懐かしい奴が来るようだ」


「やつ? それは一体、何者が……」


 執事は最後まで言えなかった。 なぜなら、突然の爆破音が言葉を遮ったからだ。


 爆破音。 それは迷宮の壁を爆破して崩した音。


 モクモクと土煙が立ち昇り、立ってる男の姿を隠している。


「何者か? 決まっているさ。ここに、迷宮に俺がいるならば、対峙する男は1人だけだ」


「――――」と男は土煙を掻き消すため、剣を振るった。


 煌めきの光。その場に剣筋が残る。


 そして、姿を現した者にジェルは、


「久しいな、レオ……レオ・ライオンハート!」


 対する、レオは「――――」と無言でジェルを睨む。


 手にしている剣は、勇者の聖剣。 それをジェルに向ける。


「だが、ここで俺を倒すつもりなら、その考えは甘いぞ」


 ジェルを庇うように執事が、そして暗殺者と魔術師が前に出た。


「この3人を倒せるものなら、倒した後に俺を追ってこい」


 レオに背中を見せたジェルは、歩き出す。


「――――待て、ジェル・クロウ!」


 駆け出そうとするレオを執事が止める。


「そう簡単に行かせませんよ、それにここでジェルさまの怨敵を滅ぼす最大のチャンスです」


「退け、何者か知らないがお前では俺を止められない」


 それだけ、それだけだったはず。


 レオは、言葉を発したのみ。他者には知覚できぬ速度で攻撃を――――すでに終えていた。


 ゴトッと不吉な音がして執事は気づいた。


 自分の首が斬り落とされたことを――――


「弱い。足止めにもならな――――」


「おっと、レオ。ソイツを甘くみるなよ」


 離れていくジェルが振り返らずに言った。それから、こう続けた。


「ソイツは、そこからが強い」


 

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