第49話ワイバーンとの戦闘 ①


 接近するその敵影。


 攻撃目標をシズクからジェルに変更したのは魔物としての本能か? 


 ワイバーンは巨大な顎を開き――――


『ファイアボール』


 巨大な、巨大な火球を放出した。


 対するジェルも魔力を手に集中させ――――


『ホワイトエッジ』


 魔力から具現化された氷結の刃を放った。


 2つの相反する魔法。 空中で激突すると思われたが、ワイバーンは――――


 (――――愚かな人間だ。その程度の小さき魔法で止められるとでも?)


 そう勝ちを確信していた。 


 事実、放たれた両者の魔法攻撃は、単純に大きさが違う。


 相殺し合うどころか一方的に氷の刃は溶かされる――――そのはずだった。


(――――なにッ?)


 だが、両者の魔法は直撃しなかった。 


 その瞬間、ジェルの魔法は四方へ散開。 火球を避けるようにワイバーンに向かい続ける。


(益々、解せぬ。火球の直撃を選択して、我と相打ちを狙うか?)


 ワイバーンは接近するジェルの魔法『ホワイトエッジ』を無視した。


 彼の体を覆う鱗はドラゴンに匹敵する強度を有していた。


 元より頑丈な肉体に加えて、魔力が通った鱗の鎧。


 並みの魔法で傷つくことはない。


 ――――一方のジェルは、魔法壁による防御を展開することすらなく、巨大な火に飲み込まれて行った。


(人間にしては、奇妙な脅威と認識をしたのだが……所詮は――――)


 そのワイバーンの思考は、痛みで停止した。


(なっ! 我の鱗を持って痛みを? いや――――これは?)


 痛みを受けたことより、その方法にワイバーンは驚く。


 鉄よりも強度の高い鱗。ジェルが放った『ホワイトエッジ』は鋭く、その鱗の隙間――――可動性のために必要な隙間に――――正確に突き刺さっていたのだ。


(なんと! あの距離。あの短時間で、ここまで正確な攻撃を――――葬り去るには惜しい人間だったかもしれない)


 そんなワイバーンに対して――――


「なに勝ちに浸ってやがる?」


 そう言ったのはシズクだった。


「私の相棒は、いや人間の生命力を甘く見るな。ほら……もうすぐ、恐怖のお出ましだ」


(貴様は何を? いや、脅威度が下がっておらぬ?)


 360度。全面が燃え盛る火球の内部。 生存を許さないはずの環境でありながらもジェルは生きていた。


 彼が装備している『吸魔のマント』


 本来なら、周囲の魔素を吸収するという自動魔力回復装備にすぎない。


 しかし、持ち主であるジェルの膨大な魔力に依存しているソレは、吸収する魔素の量を加速させた。


 今ではワイバーンの火球ですら、持ち主のジェルに直撃を許さない吸収量。


「――――とは言え、炎に囲まれると酸素がないからなぁ」とジェルは嗤う。


 確かに、火をいう物は空気の中にある酸素を燃料にして燃えるものだが……


 ならば空気の震動であるはずの声が、なぜジェルは出せるのか?


 そんな疑問を吹き飛ばすようにジェルは自身を囲む炎を吹き飛ばした。


 手に持っているのは『炎氷の杖』


 炎属性と氷属性を強化する魔法の杖は―――――敵の攻撃であるはずのファイアボールですら操ってみせたのだ。


    


 

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