第50話ワイバーンとの戦闘 ②

 視殺戦。


「─────」と互いに目で戦意をぶつかり合う。

 

「おいおい、私も交ぜろ」


「シズク、君なら─────」


「わかってるさ。本気を出せば簡単に打倒できる。けど……それじゃ、つまらないだろ?」

 

 「────」と無言で返答したジェルだったが「────フッ」と笑いを漏らした。


 シズクの言葉は事実だ。 虚勢でも、ハッタリでもない。


 目前のワイバーンが脅威となるのは、もちろん空中戦。


 機動力の高さに加えて、遠距離からの魔法攻撃。

  

 つまりは制空権を維持する高い制圧力――――


 実を言えば、ジェルとシズクには、そんなワイバーンを完封する方法を有している。


 シズクの魔法『雷光の槍ライトニングジェベリン


 ジェルの魔導書『雷撃上昇の魔導書』


 この魔法のコンボ。


 攻撃を請け負うシズクが全魔力を使用すれば、雷による巨大な牢獄――――


 鳥かごにワイバーンを封じ込める事ができる。


 機動力を失ったワイバーンを倒す事は容易い。


 だからだ。だから、シズクはつまらないと言ったのだ


 だから、ジェルは笑いを溢したのだ。


「どうしてだろう?」とジェルは続ける。


「君の考えは非合理的で困難だ。それが、とてつもなく魅力的に聞こえてならない」


「どうしてだって?」とシズクは答える。


「できるだけ困難に立ち向かう。それが冒険者の精神ってやつじゃねぇの?」


 笑い合う両者を見て、怪物ワイバーンは何を思ったのだろうか?


 巨大な肉体の巨大な翼を見せつけるように広げ、威圧のために咆哮を放つ。


 ――――わかる。


 その感情は純度の高い闘争心。それ以外の呼び名なない。


 だから――――ワイバーンは動いた。


 口からは魔法。 種類は、先ほどのファイアボールと同質。


 しかし、目的が違う。 巨大な一撃ではなく、可能な限り速射を開始する。


 言うならば接敵を拒むための弾幕。 


 その分、威力は低い。


 直撃しても、


 ジェルのマントと杖も――――


 シズクの不可視の盾を貫く事はできない。


(だが、その場に足止めをする事ならできる。動けぬなら――――死ね!)


 ワイバーンが選択した攻撃は、高速接近から爪による攻撃。


(狙いは、我の炎を無効化した者)


 盾を持つシズクよりも、比較的装備の防御力の低いジェルを選択したのだ。


 だが、それは――――


 生物の爪であれ――――


 剣による刺突と同等の技。


「残念だが、剣の技で俺は倒せぬよ」


 その手には魔法の杖である『炎氷の杖』は消えていた。代わりに手にしているのは二振の刀。


「行くぞ――――剣聖セット 名刀コテツ&妖刀ムラマサ」 


 

 接近すらば、ワイバーンの大きさがわかる。


 高さだけでもジェルの1.5倍。体長なら3倍ほどだろうか?


 そんな怪物が高速で接近して爪で突き刺そうとしてくる。


 どんな達人でも人間の技で、弾いたり受けたりすることは叶わない。


 だが、剣聖セットを装備したジェルは達人ではなく剣聖だ。


 人間技なんぞ、超越しているに決まっている。


 ジェルは向かい来る爪を妖刀ムラサメで弾く。 防御に武器破壊の名刀コテツを選択しなかったのはカウンターのため。


 強固たるワイバーンの鱗。だが、名刀コテツならば――――


 斬


 切り裂かれた鱗。


 ジェルの斬撃はワイバーンの肉体にまで届き、鮮血を巻き上げさせた。


 

  

  

 

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